BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

20131202 子供鉅人、F/Tシンポジウム、チェルフィッチュ

 

いいかげん、書いても書いても現在に追いつかないこの日記にくたびれてきたのだが、子供鉅人『HELLO HELL!!!』については書かなくてはいけない。二日酔いや寝不足を心配していたが、それは杞憂で、最後まで面白く観た。もっとも、同じくエンターテインメントな音楽劇であれば、昨年の『幕末スープレックス』のほうが物語としての強さはあったかもしれない。あるいは初めて子供鉅人を観て大きな衝撃を受けた『バーニングスキン』ほどのイメージのひろがりはなかったし、CoRich舞台芸術まつり!2011で僅差の準グランプリを獲得した『キッチンドライブ』のような型破りのハチャメチャさであるとか、『モータプール』のようなヴァルネラビリティhttp://bricolaq.hatenablog.com/entry/2013/06/10/031403)が十二分に発揮されていたとは言い難い。つまりこの作品が子供鉅人の最高傑作かといえば、そうではなかった、とは思う。

 

ただ、この『HELLO HELL!!!』のラスト(まだ北九州公演が残っているのでネタバレになりきらないように書くなら)、あの状態でも世界が終わらずに人間たちが再生(再生産)していくという世界観と、そこにアレがなぜか戻ってくるというシーンには、感動を禁じ得なかったのだ。これは果たして安っぽい感動だろうか? ただのお涙頂戴にすぎないのだろうか? わたしはそうは思わなかった。例えば、この作品では確か、天使以外には天国の住人は登場しなかったはずであり、そう考えると、すべての人間は地獄に落ちるということかもしれない……。ともかく、そうした人間の業の深さを子供鉅人が描こうとしているのは確かで、人間は所詮、誰しも、大なり小なり悪党なのだ……というのが彼らの思想なのだとしたら、わたしはそれを信じてもいいと思うのだった。性善説でも性悪説でもないこの思想は、上にあげたようなこれまでの子供鉅人の作品群にも、やはり流れていたものだろう。そしてこの作品において、それはひとつの現われを果たした。

 

およそ30人を指揮する手腕も見事だった。子供鉅人のオーバーアクションは、東京の小劇場に慣れた身からすると「うっ」となる時もあるんだけども、演劇のDNAとして必要なものを孕んでいるところがあるとも感じている。構成については、ごちゃごちゃしないで1人〜2人の俳優を美しく見せるシーンがもう少しあってもいいかな……。大衆演劇的な庶民のパワーは素晴らしいと思うのだが、そこにノレない人、ノレない時間というものもあるから。

 

208cmグレッグとBABの凸凹コンビとか、トム・ウェイツばりの歌声を披露するデグルチーニの怪演など、様々な見所があった。子供鉅人の今後ますますの活躍を祈りたい。

 

 

 

終演後はF/Tシンポジウムへ。非常に刺激的な言葉の数々を拾うことができた。しかしなんとなく最初からこのシンポジウムには異様な終末感と共に不思議と達観した空気とが漂っていた。わたしは何か、途中で誰かが、この世界の終わりを宣告するのではないか、とか思いながら聞いているところがあった。結局、そういうことは起こらなかったのだけど。

 

 

 

東京芸術劇場チェルフィッチュ『現在地』再演。先日の岡田利規インタビューでいろいろ話を聞いたこともあり、さて再演でどう感じるか、と期待していたのだが……こ、これは…………! ちょっと望外の衝撃を受けてしまった。特に劇中劇に割って入る伊東沙保の「狂ってるわ」のセリフには凍り付いたというか、鳥肌が立って呼吸困難に陥りそうになるくらいだった。どうしてあんなことが起きたのか、というくらいに刺さった。

 

この作品を初演時(2012年春)に観た時は、わたし自身も「テーマが直接的すぎる」と感じたし、もっと強い拒絶反応を感じる人も多かったらしい。今回の再演は、あの時とは違ってかなり冷静に観ることができそうだ、と序盤はのんびり構えていたのだが、次第に不穏さは増し、上に書いたセリフのシーンで見事にその「冷静さ」は裏切られてしまった。撃ち抜かれてしまった。それは要するに、問題は何も終わっていない、ということなのだろう。

 

どうやら『現在地』は耐久年数の長い作品になってしまったようだ。そのことはこの作品にとっては幸福だが、世の中的にはどうなのか。ともあれ、たぶんここに描かれているようなことを、この先の日本人(やもしかしたら人類)が抱えていかざるをえないというのは間違いない。そしてこの戯曲は、ある滅びた国の物語として語り継がれることになってしまうのかどうか……。

 

 

興奮冷めやらず、劇場で隣り合わせた徳永さんとNさんと、野菜串を食べて帰る。時代がひどくても、ごはんは美味しい……。