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BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

第60回岸田國士戯曲賞、一夜明けて

 

北陸新幹線の車内です。このタイミングでこれに乗れたのは何かのご縁かもしれません。タニノクロウさん、岸田國士戯曲賞受賞おめでとうございました。

 
 
予想対談、再掲しておきます。徳永京子さんとこの作品についてかなり熱く語っていますので、ぜひ読んでいただきたいです。予想としては「大穴▲」的中ということになりますが、神里くんとの馬連(ダブル受賞)と神里単勝馬券に大金を賭けていた感じなので、結果的には大損をこいたような気分も少なからずあります。(だいぶ語弊のある表現かもしれません。タニノさんの受賞は大変おめでたいことです!)
 
 
 
有力候補と目されていた神里雄大さんは残念でした。もちろん他の候補者のみなさんもそうなんだけど、だけどあの戯曲(『+51アビアシオン,サンボルハ』)を落とすとなると相当の理由が必要なはずで、選評を切実に待ちたいと思います。おそらくかなり議論が交わされたのでしょうし。実は予想対談には書きませんでしたが、去年の古川日出男さんへの選評などから想像して、野田さんも推す側に回るのではないかと予想していたのです(岡田さん、宮沢さん、KERAさん、そしてオリザさんも推す理由はありうるし、あとは野田さんまでいけばと)。果たして実際はどうだったんでしょうかね。
 
 
 
今回、すべての戯曲を読ませていただき、予想する立場を与えられたことで、岸田賞とそれをめぐる言説を我々(日本語で演劇を語る人々)が鍛え上げていくにはまだまだ時間がかかるとも感じています。岸田賞にはお祭りの要素もあるので、みんなでワイワイ盛り上がればいいと思いますが、いっぽうで、丁寧に議論を重ねていくことも必要だと。「戯曲」賞の位置付けについて議論され始めたのもごく最近のことではないかと思います(岡田利規さんの問題提起は大きい)。そして、これが戯曲賞だという正解があるわけではなく、その時々の審査員たちの選評や、どの作品が受賞したかの先例、そしてそれらに対する我々の議論によって、そのコンセンサスが醸成されていくことになるんでしょう。だからこそ、それを続けていく必要があります。
 
 
もちろん劇団や作家にはファンがそれぞれ一定数いますし、ファンは、自分の贔屓にしている人が獲ってくれたら嬉しい。その気持ちも大切かもしれませんが、その「好き」の表明だけでは議論が積み重なっていくはずもないので、こうして議論がひらかれ始めたのはとても大事なことだと考えています。
 
あと自分が上演を観た作品が岸田賞を獲ったらなんとなく嬉しい、というメンタリティもわからなくはないけど、上演と戯曲はハッキリ違うものだということも今回各戯曲を読む中で痛感しました。
 
 
しかし戯曲を読むのは楽しいものですね。小説に比べると取っ付きにくいかもしれませんが、この独特のイメージの立ち上げ方はわたしは好きです。戯曲がもっと雑誌に掲載されたり、書籍になったり、あるいは(有料でも)ネットを通じて読めるようになったら、日本の演劇文化はもっと豊かになるんじゃないかと感じています。
 
 
 
白水社と候補者のみなさんに感謝します。審査員のみなさんもおつかれさまでした。そしてあらためて、タニノさん、おめでとうございます! 素晴らしい作品でした。
 
 
 

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