BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

マニラ再訪日記19日目

 

火曜日。体調もほぼ万全に近い。ジプニーでクバオまで出て、高架鉄道でマリキナシティのサントラン駅へ。もしもここで演劇クエストをつくるとしたら……という心づもりで歩いてみる。ひとりでぶらっと歩きたいと思える町は、メトロマニラでは稀有なことだと思う。数日前にこの町に来た時には(その存在と歴史を知らなかったので)気づかなかったが、町のあちこちに「ありがとうBF(バヤニ・フェルナンド)!」の文字が掲げられている。とはいえ庶民的な暮らしぶりは全然残っているし、完全にクリーンになったわけではない。犬の糞を踏み、ガムを踏み、泥水で滑った。

 


イメルダ夫人の靴が展示されている博物館へ。彼女の靴の数が800足も展示されている。どの靴も新品コレクションではなく、それなりに履かれた痕跡があるのが面白い。彼女はここでは慈愛の人物として描かれていて、マルコス独裁に対する批判的な言説この博物館の中には存在しない。

 

クヤ(お兄さん)! クヤ! え、もしかしてアテ(お姉さん)? いや、クヤ! クヤ! と女子高生たちが叫んでいて、なんだろうなと思ったら、わたしのことだった。自転車でスーッと少年が走り寄ってきて、タガログ語で何かを言う。ごめん、英語でもいいかな、と頼んでみるがその子は英語が話せず、たまたま近くにいた青年が通訳してくれる。「リュックが開いてますよ」と。PCを家に置いてきたので(歩く、と決めていたし、盗難紛失のリスクは減らしたかったので)油断してぽっかりリュックが開いていたらしい……。子供たちに手を振って礼を言う。

 

市場でBukoという瓜みたいなやつのジュースを10ペソで買ったり、靴職人の小さな工房を覗き見たり、中古自転車の修理や路上散髪をしている細い路地に入ったり……と暑い中を歩きまわって疲れた。ビールでも呑みたいなーと思い、こないだラルフたちと立ち寄った川沿いの小さなレストランへ。営業時間外のため店員はぐうすか寝ていたが、そのうち女将さんらしき人がやってきてレッドホースを売ってくれる。なんとなしに話しているうちに、彼女の父親はダディーJと呼ばれる人物で、このあたりの公共建築物のデザイナーであるとわかる。実際そのダディーJ70歳もやってきたが、城崎温泉の西村屋さんを思い出させる佇まい。店の女将、リズによると、BFはゴッドファーザーだという。リズは曽祖父まで遡ってもずっとマリキナの人で、だから自分にはプロヴィンス(田舎)がない。かつてはこの川沿いはスラムだったけど、BFによって今のように生まれ変わったの。どう、美しいでしょう? 今はまだ暑いけど、夕方も5時頃になると人がたくさん出てきて、自転車で走る。たくさんあるレストランもオープンする。その時間のマリキナをぜひ体験してみて。

 

……というわけでオススメに従って散歩をしてみることに。先日も訪れた川向うの集落はやはりいい感じに牧歌的だが、暮らしぶりは貧しい。奥の方はちょっとよそ者が入りづらい雰囲気で、スラムのようになっている。しかし子供たちが路上で賑やかに「だるまさんがころんだ」のようなゲームをして遊んでおり、危険は感じない。子供が死んだ目で物乞いしてくるか、生き生きとした表情をしているか、というのはその地域の治安を推し量る上での大事な指標だと感じる。

 

夕暮れ時の川沿いは実際とても居心地がよい。もしも『演劇クエスト』をマリキナでやるならここを最終地点にするのはどうだろうか。横浜・本牧の鈴木屋酒店的な「楽園」に。そしてかつてスラム街だった、今はのどかなテーマパークになったこの場所を見ながら、参加者は何を思うだろう?

 

場所を発見した興奮とレッドホースの効果があいまって、いつもはカオスにしか映らないジプニーの流れが驚くほど明瞭に見える。半ばゆるゆると動いているそれに飛び乗ってケソンシティへ。デュッセルドルフ滞在3週目に、一日乗車券を買ってトラムやバスを乗り回した時の感覚が蘇ってくる。……とはいえ病み上がりで無茶をしたのは事実であり、JK、アーロン、クローディア、イェンイェンとブラーロ(牛肉のスープ)を食べたあとは、どっか呑みに行く?、という誘いを断っておとなしく眠ることにする。

 

 

https://www.instagram.com/p/BBSJg68qsq2/

f:id:bricolaq:20160202132704j:plain