BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

北京8日目(最終日)


朝、史恵さんたち何人かは天安門周辺に観光に行ったようだけれど、わたしは集合時間ギリギリまで起きられず……。12時に集合し、空港に向けてバスで出発。

 

車内では三浦基さんにインタビュー。いずれ某所で記事になるはず。思うに中国語名サンプーチーこと三浦基は、相当に北京を気に入った、もっと言えば好きになったのではないだろうか? 彼らがまた北京に、中国に、来られるような機会がありますようにと願う。それを望んでいる中国の観客も少なからずいるはずだ。

 

今回、ただ作品を見せるだけではなく、ワークショップやレクチャーの機会があって良かったと思う。これはヨーロッパに行っても考えたことだが、日本の現代演劇は技術的には非常に高いレベルを持っていると思う。ひとくちに言えば「洗練」されている。良くも悪くも「空気を読む」という形で人の目を気にして生きることが、日本の都会(特に東京)の人たちとその芸術やファッションを洗練させてきた面は確実にある。しかしこの洗練された芸術様式を、ただ表層的に伝えてもほとんど意味を為さないだろう。日本でも、ある劇団のやり口が流行すると、その形式を模倣したものが後から後から沸いて出てくるという現象が、この10年だけでもしばしば見られたわけだが、それと同じで、ただの模倣だけではこの巨大な大陸の文化に根を下ろすことは難しいのではないだろうか。その点、地点は今回の旅で、彼らの大事な思想や哲学を伝えることにある程度成功したと思うし、その意味で三浦基ほどの適任者はいなかったはずだ。何しろひたすら喋り続けられるのだから……。そして彼は彼なりに中国のことを勉強していて、中国の文化やメンタリティを知ろうという知的好奇心を強く持っていた。それは初日から最後まで一貫していた。あとは彼らの思想哲学を受け取った中国の人たちが、どう育てていくのか。そして地点もまた、この北京できっと何か大きなものを得て、それを持ち帰ろうとしているのだと思う。

 


空港に向かう道の途中で、車から降りて殴り合いの大げんかをしているのをバスの中から目撃した。ベンツ同士がぶつかって(つまりは富裕層同士の)喧嘩になったのだと推測される。人が容赦なしに他人に殴りかかっているのを久しぶりに(もしかしたら初めて)目にしたが、ろくなもんじゃないし、凄惨だった。余裕をなくすということは、どこの国に、どこの都市にいてもありうる。我々が大部分の時間を過ごした南羅鼓巷はまだ落ち着いていたけれど、急速な経済発展の中で、心を擦り減らしている人たちもきっとたくさんいるのだろう。

 


わたしと空間現代の3人は羽田組。後の面々は関西に帰る。見送りに来てくれたシンシンともここでお別れ。日本への出張はそうあるわけではないらしいので、また北京に来ないと彼女にはなかなか会えないのかもしれない。別れのシーンはいつも切ない。またどこかで、とは思いながらも、北京に来ないと会えない人がいるのも事実なのだろう。ちなみに日本に行くには簡単にビザが下りるわけでもなくて、ある程度の所得がないとダメらしい。

 

そう遠くないうちにまた北京に来たい。いわゆるツアーパフォーマンス的なものがどの程度行われているのか今回の旅では知ることができなかったが、『演劇クエスト』をあの迷宮のような胡同でつくってみたらさぞかし面白いだろう。それに、ある土地や都市のエートスを深く理解するにあたって、クエストは自分としては相当に良い回路になっている。いずれ北京でクエストをやることに必然的な意味が見い出せる時が来るかもしれない(逆に言えば、まだその確信を見い出せてはいない。何かもうひとつピースが必要だと思うし、それはいずれ見つけ出したい)。

 

秋にはあの劇団も来るのだと聞いた。あるいは来年、あの劇団が来るかもしれないとも。いろいろな人たちが越境しようとしている。共通言語のないアジアにおいて、ひとつひとつの移動は大きな意味を持つことになるだろう。

 

 

 

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北京空港にて、石田大

 

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羽田空港にて、空間現代。おつかれのところ、ちょっとカラ元気出してもらいました