BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

マニラ滞在記3 3日目(2016/5/18)


フィリピンでは熟睡できるのはなぜなのか? 眠りの精がやってきて、朝までぐっすり眠りこけるようにわたしを魔法にかけているのかもしれないって思う。

 

近所のAte Fe’s(フェーおばさんの店)で朝食。母と娘と兄みたいな感じの店員たちが、どっから来たんだい、と親しげに訊いてくる。チキンのマミ(ヌードル)を。油はけっこうな感じだけど、案外食べやすいし美味しい。日本でいうと神座の「食べるラーメン」に近いもので、55ペソ(140円くらい)。また来てね、と店員さん。

 

そのままマギンハワ通りを歩いて、クライドに教えてもらったオススメのカフェ・THEO’Sに行ってみる。2階があってそれなりに席数もあり、wi-fiもそこそこ快調。しばらく作業していると、前回の訪問時にいろいろ教えてもらった「ジプニー先生」ことラルフから連絡があり、なんだったらマリキナに一緒に行こうかいと提案してくれたので、ぜひ! ってことで午後3時頃にJKの家で待ち合わせることに。ところが午後2時前くらいからぽつぽつと雨が……走って家に駆け込むと、クライドが門番のようにいて、「ちょっと待って、ユキを今どうにかするから」。

 

りっきーを噛んで病院送りにしたという犬のユキ。JKいわく「ユキはレイシストですね。なぜなら日本人とスウェーデン人しか噛まないから」。けれどユキは、わたしを見ても吠えないのは前と変わらないし、興味ないようなあるような微妙なふるまいも相変わらず。噛まれない気がするんだけどなあ……。でも大事をとってアイリーンが犬小屋の中に入れてくれる。

 

雨は本降りになった。というか雷が轟いて豪雨に。この時期にこれだけ雨が続くのは珍しいらしい。うーむ、演劇クエストにとっては天敵の雨。今までは晴れ女のおかげでどうにかなってきたけど、彼女のいない今回は果たしてどうなるかな……。

 

やむ気配もないので、ラルフに連絡して、申し訳ないけど明日にしようと仕切り直すことに。ラルフはできるだけ手伝うと言ってくれている。超ありがたい……。彼みたいにマニラの生活者の感覚を身につけている人が味方になってくれるのは心づよい。

 

豪雨のあいだも、隣の家の大工のトカトントンの音は鳴りやまない。


アイリーンがバスルームを丁寧に掃除してくれている。彼女にとってこの新しい家は巨大すぎて大変かもしれないが、清潔なぶん、やり甲斐もあるのかも。そのうち心境を聞いてみたい。


4時半頃になってようやく雨がやんだ。階下でJKがやたらと騒いでいるので、降りてみるとイェンイェンたちもいて、彼女もやはり「これからマリキナ行くのは大変だよ、ラッシュアワーだよ〜」と言う。前日の情報提供の御礼を言うと、元カレが住んでたからねー、といたずらっぽく笑う。なるほどねえ、とそれで納得。さすがだなあ……。

 

いろんな人たちに「Ingat!(インガット!=気をつけて!)」と見送られて、カラヤーン・アヴェニューのカフェRegionへ。窓際のカウンター席に座っていると石神ちゃんが横切っていくのが見えたから手を振ってみたけど彼女は気づかない。そのうちまた雷雨が復活して、どでかいやつがバリバリバリドーン!!!と近くに何度か落ちる。おーこわい。

 

3人の男の子が店に入ってくる。カウンターに座ってるわたしを挟んで2人と1人になってるので、代わろっか? と提案したら最初は照れて「いや、大丈夫です気にしないで」とか言ってたけど、「やっぱり変わってもらっていいですか、お邪魔しちゃってごめんなさい……」

 

他に1人で長時間来てた女の子は、途中、隣の店からオーダーした食べ物をテラス席で食べていた。なるほどそんなこともできるのね。

 



午後9時過ぎ。うーむ、スーパーはもう閉店してしまったし、ビール買いそびれたな。とりあえずまだ開いてる薬局で水を買い、懐かしのマタリノ(Matalino)ストリートのバーに行こうと思ったけど、雨のためにすでにテーブル席は埋まっており、例によっての爆音。うーん考え事には適さないかもな、と思い直してJ-Jay'sレストランへ。石神ちゃんオススメのロミ(125ペソ)を頼んでみたが、確かに胃にも優しそうだし美味しいし温まる。レッドホースを2本立て続けに注文しながら、まだ今回行けてないマリキナのことを考えてみる。


今回の『演劇クエスト』の現時点のポイント。

 

ツールとしての英語で語りかけること。

・日本人というストレンジャー(異物)であることを前面に出すこと。

・散歩あるいは遊歩という概念を示すこと。

・ふたりのダディーJ。そしてリズの店。

イメルダ・マルコスの靴コレクション。

・靴工場の衰退の歴史。

・BFの政治的リーダーシップと、ドゥテルテ新大統領の近親性。

・台風が引き起こした水没。

・巨大な市場、教会、ビリヤードホール。

・川の対岸に残存するスラム街。

デラペーニャ地区の世界ストリート群。

・川沿いにあるいくつかのモニュメント。

・自転車は日本製が多い。サイクリング貸し出し場のジャパゆきさん。

・橋の北側の細い路地。前行った時は路上で散髪してる人がいた。

・ニンヤが言ってたオシャレな通りも。

・通りの名前の由来。そこに宿るものについて。カティプナン含め。

・サントラン駅は実はパッシグとマリキナの境界にある。

・しかし言うてもたぶんみんな地図は読めないぜ。


……調子に乗って酔拳してたら熱々のロミで唇を火傷する。ヒリヒリ。まあでもこの痺れる感じも悪くないと思えるくらいには酔っている。さらにサンミゲル・ピルスンを1本注文。このまま現地に行かないで想像の世界だけで演劇クエストをつくってみるのも面白いかもな……いやそんなことは無理なのだが、それくらい何か飢えてるものがある。近くまで来ているのに現地に行けてないっていう。まざまざと脳裏にはあの町並みの記憶が蘇っているというのに!


夢想の世界から戻ってみると、隣のテーブルには家族連れが来ていて、まだ5歳くらいの女の子はめっちゃ痩せている。こんなに痩せた子は日本にはまずいない。ここに来るくらいだからそこまで貧しいわけでもないだろうけど、もしかしたら、この家族にとって特別な夜なのかな。その女の子は嬉々として、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんに、無邪気にスプーンやフォークを配っている。

 

向かいのテーブルにはなぜか熟年カップルが差し向かいではなく横に並んで座っており、ふたりともキアロスタミの映画のような淡白なしかし無限のドラマティックさを秘めてご飯を食べている。もしもこれが映画だとしたら、彼らの振る舞いはわたしだけに向けられたスペシャルな演技だった。

 

さらにレッドホースをもう1本注文。

 


ほろ酔いで(しかし当然ながら夜道への警戒心は怠ることなく)ピュアゴールド前からトライシクルを拾ってマギンハワ・ストリートまで。25ペソ。OK、深夜料金なのね、と特に嫌味でもなく言ってみたが、運転手の目は真剣そのものだ。

 

 

家に帰るとクライドが門番のような顔をしてドアを開けてくれる。合言葉を言わなくて申し訳ない、とか思うくらい。2階にあがるとイェンイェンが廊下に寝そべってふんふんと何か口ずさみながら作業している。幽霊みたいだねと言ったら(ほんとは座敷わらしみたいだねと言いたかった)、彼女はそれを褒め言葉のように受け取ったらしい。そしてさらに3階にあがるとJKとイェロ君が謎のマッサージ的秘儀をしていて、アロマを炊いてそれらしいアンビエント・ミュージックを流し続けている。

 

各階のボスを倒さないと先に進めない「スパルタンX」的な世界だとしたら、この家はなかなか手ごわそうである。

 

 

雨はまだ降りしきっている。

 

 

 

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