BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

マニラ再訪日記4日目


シャワーは冷たい。創設者イメルダ・マルコスの富と権力をもってしても、ここにお湯を引くことはできなかったということか。それともイメルダ夫人は、利用者がこの涼しい山の中で凍えることを想像しなかったのだろうか? でもまあ、なくてもなんとかなっているのは事実だし、寝具は若干カビ臭いものの、よく眠れる。朝の7時にガードマンが朝食を届けにくるまで一度も目は覚めなかった。

 

 

11時過ぎ、JKのクラスの共同講師であるテスが車で迎えに来てくれて、UPキャンパス内のレストランへ。わたしはコーヒーのみ。彼女が今度来る(!)TPAMのこと、能のことなど、いろいろ話す。


大学通り(ロペス通り)を歩いてショッピングモール・ロビンソンへ。スマートフォンを物色してみるが、テスが教えてくれた値段より高かったのでひとまず断念。しかし店員は「ごめん、うちにはないけどあの店にはあるかも」と親切に教えてくれる。この町の人たちは、お金に対してガツガツしてないところがいい。正直マニラではなくここロス・バニョスでなら『演劇クエスト』もつくりやすいのではないか、という考えが頭をもたげてくる。

 

帰りはジプニー。現地の人がいない状況で乗ったのは実は初めて。やればできるじゃん、とりっきーともども良い気分になる。ローカルな食堂に入ってみたら安くて美味しくて愛想も良くて、さらに良い気分になる。棚に並んでいる料理を指差すスタイル。焼き魚、煮魚の酸っぱいスープ(ブラーロ?)、あんかけの炒めものなど。しめて二人分で170ペソ。大満足。

 

しかしそれから2時間も経たないうちに、マキリン山のカフェテリアでディナーが出るのだった‥…。そんなに食べられない、と断ったのだが、テスにまあとっておきなさいよと言われ、夜食として持ち帰ることに。1食ぶんのみ、りっきーと分け合って食べていると、ジェロ君が「一緒に食べてもいい?」と例の甘えた顔でやってきて、「チカラさんは昨日座って僕たちの劇を観てたけど、タガログ語わからないのに意味わかったの? だって僕、こないだ韓国で演劇を観たけど、言葉わかんなくてちんぷんかんぷんだったんだ」と訊いてくる。とにかくジェロ君はオールウェイズ可愛い。りっきーの分析によると、女の子との距離の詰め方もうまいという。なるほど確かに。スッと入っていくのだった、ジェロ君は。それはともかく以下のように答える。実はJKから物語のサマリーだけは事前に聞いていたんだ。ディテイルはわからないけど、後でJKにいくつか確認したよ。それに言葉や物語がわからなくても、いろんなことを感じることはできる。身体とか、声とか、イメージとか……。確かに演劇は、言葉に頼る芸術だよね。でも、言葉だけに頼らない芸術だとも言えるよね。

 


JKに誘われ、大樹の下で、2人の少女への集中稽古を見る。椅子はあったが、なんとなく自分も地べたに座る。そのほうが彼女たちの世界に近づけるような感じがする。JKはタガログ語で、たぶん、この空間を感じろということを言っている。かなり厳しい物言いだが、まったく高圧的ではない。厳しくもやさしい時間が流れている。ロス・バニョスに響き渡るような声で、とJKがおそらく指示する。少女たちは夜空に向かって叫ぶ。とても中学生とは思えない迫真の演技で。1時間ほど同じシーンを繰り返し見続けていたが、飽きることはなかった。満天の星空の下、大きな樹の下で、みずからの可能性を最大限に確かめるこの体験は、きっと彼女たちの心の中にこの先ずっと棲み続けることになるだろう。それはいつか人生のつらい時に、彼女たちを救うことになるかもしれない。

 


彼女たちが聞いたら笑いそうな話だが、今さらながらようやくビールの蓋を、オープナーなしで、スプーンでもサクッと開けられるようになった。すべてはこういうことの積み重ねだと思う。気を良くしてJKとりっきーと3人でゲストハウスで呑んでいると、隣りに住んでいるヴィクトール・フロール先生が不意にやってくる。25年間、この学校でダンスの先生をしているのだという。アイサ・ホクソンも含め、数々のダンサーや振付家を育ててきたわけだ。しかしとても気さく……を通り越して超愉快な先生で、いきなり日本は素晴らしいとさんざん褒めてくれる。クール・ジャパンだっけ? みたいな。おいおいクール・ジャパン作戦、それなりに成功してるじゃないか……と怒涛の日本賛辞にたじろぎながら、あのう、褒めていただけるのはありがたいのですが、正直「クール・ジャパン」って言葉はそんなに好きじゃないし、日本もパラダイスではないんですよ、あ、でも日本料理はほんとに素晴らしいと思ってますけど、特に刺し身とかね……するとヴィクトール先生は、ああミンダナオのマグロは安くていいんだよ、マニラは高くてダメだけど、と応じて話は尽きない。先生は実はNHKオタクらしく、第二次世界大戦後に発明された日本のインスタントヌードルがいかに素晴らしいか、などという話を、たぶんNHKのドキュメンタリーを観たのだろう、たくさんしてくれる。NHKはドキュメンタリーからニュースからあって本当に素晴らしいとこれまた大絶賛である。そしてよく呑む。あっという間に買い置きのビールがなくなった……。もっと買っていたら大変なことになっていた。なにしろ次の日は5時半起きだぜ……。ほどよいところ、をかなり通り越した時間帯で、おひらきに。

 

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