BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

20140522 マンハイム1日目

 

さて、マンハイムでのTheater der Weltについて幾つか原稿を書く予定があり、さらに演劇センターFでの報告会もあるので、記憶を呼び覚まそうと思って日記をひさしぶりに再開したわけだが(今これを書いているのは7月28日)、書き始めてみたら予想よりも細部の記憶が残っていて、さてどう記述したものかしらと考えあぐねている。とりあえずここでは主に、作品そのものの批評よりも、その前後のできごとを中心に書いていこうと思っています。

 


現地時間の早朝、フランクフルトに到着。空港のトイレで掃除の女性からドイツ語で何か話しかけられたがよく分からず、怒られているのかどうかも不明。今思うとこの頃はやはりそれなりに緊張していた。とりあえず「ダンケシェーン……」と力なく挨拶して退散。山口真樹子さんに切符の買い方など教えてもらい、電車でマンハイムを目指す。ふむふむ。ちなみに数年前にお会いした時から一貫している真樹子さんのやり方は、手取り足取りなんでもやってあげるというのでは全くなく、基本的なことだけ教えて後は放置、という姿勢。非常にありがたい。通訳とかも必要最小限のことしかしてくれないので、自分の耳や頭を使ってアンテナを伸ばしていくことになる。今回は真樹子さんが誘ってくれなかったらここに来られなかったのはほぼ間違いなく、人生の恩人と言っても言い足りないくらい。

 

そんな真樹子さんとお喋りしつつ、南ドイツの農村風景をぼんやり眺めているうちに、40分くらいでマンハイムに到着。

 

町のあちこちにTheater der Weltのポスターが貼られている。タクシーでホテル(hotel Balladins)に到着。荷物を預けてwi-fiに接続。マンハイムではこのホテルと劇場のwi-fiだけを通信手段にしていた。ひとまず現地アテンドのEさんに無事到着した旨をメール。

 

ホテルの食堂に入っていくと、庭劇団ペニノに出演する島田桃衣さんが。おー。ここのホテルの朝食はかなり美味しいよ、と教えてもらう。ペニノチームはここに泊まっているらしい。驚いたことに舞台美術家Oさんの姿も。彼女は留学中で、さらにはドイツの劇場への就職も決まったらしい。わお。地球は回っているんだなあ。

 

 

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パンとソーセージは実際問題かなり美味しかった。しばらく放心したように時を過ごす。やがてひょっこり現れた野村政之くん(彼も同じホテル)と真樹子さんと一緒に、トラムに乗ってナショナルシアターへ。Theater der Weltの事務局の人たちに挨拶するのが目的だったが、劇場にはおらず、少し離れたこの辺に事務所があるよ、と地図で教えてもらったのを頼りに、町を歩くことに。閑静な住宅街を通っていく。子供がチョークで遊んだ跡が道路に残っていた。マンハイムは緑が多い。日本のような湿気もない。こういう町で住むのはどんな気分なんだろう、とちょっと想像する。海がないのは残念だけど。

 

事務所はわりとすぐに見つかった。その古い建物に入っていくと、とても明るい雰囲気で大歓迎され、裏庭に面した日当たりのよいテラスに案内された。水(炭酸水)や大きな苺をご馳走になる。苺はこの時期に獲れる名産らしい。

 

しかしドイツ語はさっぱり分からないし、英語にもまだ耳が慣れてないこともあってなかなかうまく話せない。先方ももどかしかったはずだけど、イヤな顔ひとつせず和やかに対処してくれた。

 

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公園を散歩するようにしてナショナルシアターまで戻り、スタジオで庭劇団ペニノの仕込みを見学。あの『大きなトランクの中の箱』の舞台美術が見事に再現されている……。コンテナで運んできたらしい。海外担当としてペニノに帯同している門田美和さんにオペ室も見せてもらって話しているうちに、ようやく生きた心地がしてきた。タニノさんたちと一緒にナショナルシアターのカンティーネ(食堂)で昼食。どのコインが何ユーロ相当なのかまだ慣れてないので、買い物の際には戸惑う。座組の面々は、ここのご飯はしょっぱい、とこぼしていたが、そのしょっぱさを、わたしはこのあと3週間にわたって味わい続けることになったよ……。

 

いったんホテルにチェックインしてシャワーだけ浴び、再びナショナルシアターへ。この移動が歩きだったかトラムだったかは覚えていない。マンハイムの中心市街地はMannheimer Quadrate(マンハイムの四角形)と呼ばれる碁盤の目になっており、それぞれのブロックに「C2」「S3」などの番号が振られているのだが、さほど広くはないので、ホテルから劇場までは歩くことも多かった。

 

劇場の入口あたりでどうしたものかと迷っていたら、日本で二度ほどお会いしたことのあった庭山由佳さんに声をかけられる。一緒に居たフランクフルト大学の武石駿くんも紹介してもらい、ドイツ語が堪能な彼らのおかげでスムーズに事が運ぶ。ありがとう。それからアートキャンパス(いずれ後述します)の面々になんとなく混ざり込み、やはりドイツ在住の浜近拓也さんともここで知り合った。

 

フェスティバル開幕。屋外に、F/T13でも上映されたラビア・ムルエの『Double Shooting』をインスタレーションにしたものがあり、連続した絵が展示されていて、走っていくと映像のように見える仕掛け。内容よりも、次々と人が走っていく姿が印象に残った。すでに会場の雰囲気はお祭り感に包まれていた。みんなシャンパンを呑んでいるのだ。

 

確かこのあたりでコ・ジュヨンさんとも再会。これまでよりもさらに親近感と連帯感を感じた。コさんは何日間か滞在していて、このあと一緒に過ごすことも多かった。

 

そうこうするうち、このフェスティバル屈指の演目と言っていいHOTEL shabbyshabbyのツアーが始まったのだが、これについてはまた別のところで書くことが濃厚なので、ここではいったん割愛。いやほんとに、生涯忘れがたい体験になった。

 

shabbyshabbyツアーの道中はマイペースで歩いて、くっついたり離れたり、いろんな人と話した。「その帽子、いいね」と話しかけてきたのが縁で仲良くなったマンハイム在住のAndyは、かつて仕事で横浜に住んでいたこともあったらしい。彼は恋人(同僚、と言ってたけど見た感じの雰囲気は恋人)に誘われてこのツアーに参加したそうだ。ふだんあんまり演劇は観ないと言ってたけど、このツアーは大いに楽しんでいた。今思うと、彼と話し始めたあたりからだいぶ英語に慣れてきた気もする。

 

とにかく歩いた日だった。新しい靴だったために、かかとの皮がめくれ、ホテルに戻った頃には疲労困憊。夜に岡田さんとプリコグのチームにも会い、0時頃になってもまだ彼らは劇場前の広場で呑んでいたけど、わたしは到底無理だったので先にお暇した。ベッドに倒れ込んで泥のように眠った。夢は見なかった。

 

 

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