20130512 FICTIONAL SCAPER
晴れて気持ちのいい天気。自転車で象の鼻パークまで行って、目、という名前のアートユニットの『FICTIONAL SCAPER』を目撃する。象の鼻のスタッフのHさんに「参加するほうですか? 観るほうですか?」と訊かれて、ちょっと迷ったけど後者に。
『FICTIONAL SCAPER』は、一般の参加者が、ある用意されたミッションに携わるというプロジェクト。参加者は変装を施すなどして、何かの役割(ロール)を演じることになる。それによってこの海沿いの日常の風景に、虚構が埋め込まれるというもの。この日はファイナルということで、ド派手にやっちゃいましょうと結局31人も集まったらしい。
芝生に移動して、始まるのを待っていた。1時間くらい、ぼんやりと。集中と散漫とをもって。何かが起きるらしい、と予期して観ていると、実はなんの作為がなくてもたくさんのことがすでに起きていることに気づく。それに見つめていると、この中にもうすでにFICTIONAL SCAPERが紛れ込んでいるのではないかとも思えてくるのだった。
これは「演劇」と呼べるのだろうか、となんとなく考えていた。あんまり無闇に演劇の概念を拡張しないほうがいいとも思いつつ、こうした注意を喚起されるだけで、この場所がなんだか「劇場」に思えてくるのは事実だ。
いつもは扮装しているFICTIONAL SCAPERの数はもっと少なくて、だから、「始まり」と「終わり」がもっとはっきりしていないのだろうと思う。この日はフィナーレということで、ちょっとしたお祭り感があり、「あ、始まったな!」と感じた瞬間もあった。それは、すぐ隣のあたりに座っていた女性が、本を読みながら鼻をかんだティッシュを捨て始めた瞬間だった。ちなみにそのティッシュは、風で飛ばないように実は石を入れて輪ゴムで留めてあるらしいとあとでHさんに聞いて知った。仕込んであるのだ。
絵描きに扮していたおじいさんは、今日が2回目の参加で、前回は船乗りの役をやったらしい。参加してみて、味をしめたのかもしれない。
この日いちばんの見所は、宅配業者が転んだ瞬間。箱から風船が飛び出して、空へ。周囲の人たちから自然と拍手があがる。爽やかな、感動的な瞬間である。見ず知らずの人たち同士が、あらかじめの何の約束もなく、ただたまたまそこに居合わせたというだけで、ある感動を共有する。
劇場の中で観る演劇とはずいぶん違っている。これは一種の「ハプニング」の系譜につらなるものといえるのかもしれない。ただ、とても爽やかだった。この爽やかさ、風通しのよさはなんだったのだろうかと考えている。(これもきっといずれ続く!)