BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

中国・近況報告その5

「私の働いているスペースに遊びに来ればいい」とダミンが誘ってくれたのだが、その場所は、なんと訪問予定に入っていたPSA(Power Station of Art)だった。午前中は、マッサージ店という名の売春街か、ナイトマーケット跡地、あるいは朝市に向かうつもりだったけど、せっかくなのでダミンと話したいなと思い、ひと足先に地下鉄でPSAに向かうことに。最寄り駅に着いてみると、遠くからPSAの異様な煙突が見える。元は発電所だった建物が、今は美術館になっているのだ。社食をご馳走になり、中国のこと、日本のこと、未来のことなどをダミンと話す。午後には他のメンバーも合流。PSAが去年から始めた演劇ブランド「聚裂 ReActor」というプログラムについて聞く。そこにラインナップされた作品は極めて実験的で興味深いもので、特に組合嬲というカンパニーの観客への挑発ぶりは凄い。多田淳之介のラディカルさを思わせる。

 
 
夜のレクチャー&会食には、その組合嬲創設者であり演出家であるチャン・シェンが現れた。老齢に差し掛かった、穏やかな顔つきのおじさまだが、「伝統的な演劇の貞操を破りたい」と言う彼の思想や活動はとても刺激的で、誰かに心酔するということはまずないわたしだが、惚れそうになった。通訳・速記泣かせとして有名らしく、その怒濤の語り口をシンシンが頑張って通訳してくれた。検閲を潜り抜けるための彼の知恵、そして批評精神には目を瞠るものがある。「わたしはあなたからもっとたくさんのことを学びたい」と言うと、チャン・シェンは、「学ぶのではなく、友だちになるのがいい」と言った。
 
 
 
PSAで観た展示、Boonsri Tangtrongsinの『Superbarbara Saving the World』に胸を打たれた。ダッチワイフのスーパーバーバラが、この世界のために我が身を犠牲にして様々な献身的行為をする。何度も、何度も、その献身は繰り返される。それはまったくの徒労でしかない。しかしバーバラはへこたれることなく、何度も、何度でも、みずからの股間にある女性器から産まれ直すのだった。
 
 
 
 
上海には遠くないうちにまた来ることになりそうだ。あとはこちらのスケジュール、意欲、交渉次第。北京に比べて商業主義寄りだと聞いていたけれど、百聞は一見に如かず。実際にはかなり実験精神に溢れた土壌があり、アメーバ的な活動が根を広げつつあるようだ。そのバブル経済のゆくすえは不透明ではあるけれど、ひとまず今、ここに夢があるのは間違いない。上海ドリーム。横浜、マニラに続いての活動拠点になるだろうか。
 
演劇最強論in中国のパートナーである徳永京子さんに感謝。そして何から何までアテンドしてくださった日本文化中心(国際交流基金)の後井隆伸さんと呉珍珍さんには、足を向けて寝られない。
 
 
 
飛行機で、隣のおばちゃん姉妹が豆をくれた。神戸に移り住んで28年になるという。それぞれ日本人と結婚したが、姉は中国籍で、妹は日本籍。「中国と日本には喧嘩してほしくない。政府だけが喧嘩をしている。私たちは喧嘩していないのに」
 
 
1時間機内で待って、ようやく飛び立った機内から揚子江が見えた。それは、もはや川とかいうレベルではない何かであり、それ自体が巨視的な意志を持っているかのようだった。