BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

マニラ滞在記3 19日目(2016/6/3)

 

金曜日。約束の朝11時になったが、印刷担当のニンヤとテレから応答がなく、やきもきする。後で会ったら、「今印刷中で、明日にはできあがるよ〜」とのこと。全然約束とスケジュール感が違ってるけどまあいいんです。ここはフィリピンなのです。


ある人から、ジプニーの立ち乗りは「sabit」って言うんだよ〜と教えてもらう。あと「1,2,3」というのはタダ乗りの隠語らしい。もちろんそれは良くないだけど、犯罪という意識はあまりないようで、彼女は最近もその”演技力を使って”涙を流してジプニーにタダ乗りさせてもらったと。まあでも、その数ペソと引き換えに運転手は幸せな気持ちになったかもな……と思う。

 

 

石神夏希とアニノ・シャドウ・コレクティブによる『SOMATO』。スモーキーマウンテンのあるパヤタス、虐待を受けた子供たちのアジールであるアーカイ、フィルコーアの花売りの家族など、多様なコミュニティの人々に石神さんは声をかけてきたが、正直、本番にみんなが来るというのは難しいかもしれないなと思っていた。下手をしたら見世物になってしまうのだから。しかし彼らはやってきた。それはアメイジングな奇跡のような時間だった。ふだんけっして交わることのない人々同士が、劇場という場所に集い、そして一緒に影絵で物語をつくっていく。なかなかこんな美しいカオスに出会えることはない……!

 

「走馬灯」が死を連想させることについて、フィリピンでは抵抗感があるらしく、そのあたりは彼女のブログ(http://natsukiishigami.com/)に詳しく書かれている。トラウマを抱えている人たちもいるのだから、単に過去の回想、というのも困難を伴うだろう。彼らにとって過去はノスタルジックに回収できるものとはかぎらない。そこで最終的に彼女がとった選択は、未来に向けたものにする、ということだった。「10年後に隣で寝ているのは誰ですか?人間にかぎらなくてもよい」……などの質問用紙を配り、そこから影絵の物語を立ち上げていったのだった。

 

ちょうど今日到着したばかりのペピン結構設計の人たちに、スラムは必ずしも危ないわけではないけれど、子供の目が死んでいるところは気をつけたほうがいいですよ、という話をしたばかりだった。ストリートにいる花売りの子たちは、ほとんど物乞いにも近く、目が死んでいることが多い。彼らにとってはお金をせびることがルーティンになっている。しかし今日、劇場に来た彼らは、父親らしき人物が差し出されたお菓子をがめつく取る姿に圧倒的な貧困を感じたとはいえ、最初こそナーバスだった彼らも徐々にリラックスして、影絵創作を生き生きと楽しむようになっていった。やがてその父親ですら歌い始めたのだった。演劇の力、劇場の力を、すごく感じた。

 


KOLAB Companyの『Happy P』。このあとの予定を予約してしまっていたので、途中抜けせざるをえなかった。申し訳ない。観たかぎりの時間について言うと、よくわからなかった、というのが正直なところ。タガログ語がわからないというのもあるけど。後でJKにこの作品の意図するところなどを聞いてみたい。

 


クリス・アロンソンの『Play-cebo: The Experience Experience』。クリスの家での上演。出演するのは彼の従兄弟たちと、2匹の飼い犬。架空のパーティをひらく、という設定で、何人かは知り合い同士もいたようだが、ここで初めて会う人たちも多い。外の喫煙所での会話から始まり、リビングで布を貼ってテントみたいにしてビールを呑んでジェンガで遊んだり、子供時代の遊びについて話したり、かくれんぼをしたり……。そして2階では従兄弟たちのパフォーマンスがあり……。

 

初対面の人同士を結びつける、という点ではかなり成功していたと思う。特にクリスの出身校であるアテネオ大学周辺の人が多いのか、富裕層、少なくとも中産階級以上の人たちが多いように感じた。例えばある人はたぶんまだ20代だが、レストランを複数経営していて、しかも金曜日の夜という繁忙期にこの場に来られるほど余裕があるわけだ。彼らと話をするのは楽しかった。だが同時に複雑な気持ちにもなった。

 

彼らはKARNABALのことはあまり知らないようだった。そういう客層をクリスが開拓しているという事実は大変興味深い。JKたちシパットのメンバーによるアプローチではあまりピンと来ないかもしれない人々をKARNABALに巻き込むという意味では。ただそれをどこまでクリスが自覚的にやっているのかどうかはわからない。後で本人に訊いてみたい。

 

例えばこうしてパーティに集まったメンバーの中に、貧困層の住人がひとり混じっていたらどうなるだろう?

 

 

 

 

 

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