BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

マニラ滞在記3 6日目(2016/5/21)


大工のトカトントンで目が覚めて、カフェTHEO’SからAte Fe’sへ、というマンネリズム。こちらの慣習では、番号札ではなく名前で注文を記憶してくれるのだが、カフェでは「Chikaraですよね?」と覚えられていた。ここのスムージーは115ペソでかなりのクオリティなのだが、特にトロピカルラッシュというやつが美味しすぎる。

 

カフェでクリスとダニエルに再会。ダニエルのことは申し訳ない、きちんと記憶してなかったが、彼は「顔もだいぶ変わったからわからなくて当然だよ」と言ってくれる。

 


KARNABALのキックオフミーティングである「Tok! Tok! Talk! Gathering」は午後1時から……のはずが2時にスタート。りっきーは「飯でも食ってきますわ〜」と余裕でごはん食べてきたし、JKは「なんて国だ!」と嘆くけれど、まあいつものことだよね……とこちらは思っているので特に苛立つ要素はゼロ(もちろん誰も文句を言わない)。40人くらいのアーティストやスタッフが集結して、お互いに知り合いましょうという企画。一種のフリンジ企画の子たちもいるので、だいぶ若い面々もいる。

 

ワークショップ形式で3時間ほど。紙に自分の出身地や属性を書いて、向かい合って1分でお互い紹介しあったり。「誕生月は?」「いつも使う交通機関は?」とかで分かれたり。最後は「ディレクター」「テクニカルスタッフ」「パフォーマー」「異ジャンルのコラボレーター」「アカデミシャン」に分かれて、それぞれの役割について考えて、さらに「財政」「教育」「保険」あとなんだったかな……そのそれぞれに自分が差し出せるリソースをポスト・イットで貼っていく。というのもKARNABAL終了後に、これからインディペンデントに活動しようとする若い人たちに向けてのガイドブックをつくるらしく、その最初のステップという意味合いもあるようだ。

 

6月8日、9日にも「Tok! Tok! Talk!」は開催されるらしい。すでにその頃にはそれぞれのパフォーマンスを終えているはずの日本人勢は、8日に登壇の予定。

  


夜はJKの家で2つワーク・イン・プログレスがあったので観ることに。ちなみにこれも1時間遅れでスタート……。

 

まずはYugtoという若いカンパニーの『Happy Hour』というパフォーマンス。ロールプレイングで、あるパーティに招かれたという設定。本番は夜9時から夜中の3時まで6時間やるらしいが、今日はその最初のシーンだけ。最終的には「幸せ」をテーマに何か突いてくるような気配があるけれど、今日のところはまだそれは感じられなかった。問題はタガログ語での上演ということで、サラやアーロンたちがちょいちょい通訳してくれたのだが……。フィードバックの時に彼らの表情は真剣そのもの。わたしも、「自分は外国人だが、本番で外国人が来る可能性もゼロではない。今日はシパットのメンバーが通訳してくれたけど、あなた方の誰かがひとこと英語で補ってくれてもいいわけですよね。あるいはもちろんあなた方には、外国人を拒否するという選択肢もあるけど」と意見を。シパットのメンバーは国際的にも活動しているが、まだ若いフィリピーノたちはそうではないので、どうしても意識がドメスティックになってしまうのかな、と感じたので。他にもイェンイェンが「どこまでロールプレイのつもりで参加していいのか曖昧で混乱した」と指摘するなど(意外と……と言ったら失礼だけど彼女は鋭い)、活発な意見交換が交わされる。

 

続いて、去年りっきーのコラボレーターであったラス(Russ Ligtas)の『D’Oracle at Delpilar』。参加者が何か質問を紙に書いて、それに対するオラクル(神託)として、ラスと2人の音楽家が即興でパフォーマンスするというもの。ラスはとても妖艶で、トランスジェンダー的な資質を持っている。そこはいいのだが、変にユーモアを入れようとしすぎて、質問とオラクル、という重要な核が今ひとつ伝わってこない感じがあり、フィードバックでもやはりそのあたりが大いに議論された。

 

 

さらにもうひとつ、シパットのスタジオ(クバオのほうにある)でワーク・イン・プログレスがあるらしく、これはKARNABALの問題作となりそうな気配なのだが、体力を削られそうなのでそちらは遠慮することに。もう夜の10時を過ぎているし、自分の仕事をしないといけない。しかしビールくらいは欲しいものだな……。クライドに、ここからいちばん近いビールを買えるとこ、もしくは仕事できるいいバーとか知らない?と訊くと、あたしも呑みながら仕事したいから一緒に行くわ、ということでマギンハワをてくてく歩くことに。結局、マリンガップのPINOで1時間ちょい、レッドホースを呑みながらお互い黙々と作業する。クライドは目に見えて疲れている。毎日たくさんの人と喋らないといけないから、静かなところで仕事したかったの、とのこと。お喋り好きのフィリピーノだって、さすがに人疲れはする。

 

やがてJKたちが帰ってくる。この人は「つかれたー」とたまに日本語を交えて言いながらも、エネルギーが有り余っている超人なのだった。

 


* * *

ここからは特に、日本からKARNABALに来るつもりの人に押さえておいていただきたいのだが(じゃないと、来ても全然意味がわからない、ということがありうるので)、今日、KARNABALの企画で1日を過ごして特に感じたのは、主催者であるシパット・ラウィン・アンサンブルのJKアニコチェたちの狙いとしては、去年以上に、マニラの様々なコミュニティにアクセスしようとしている、ということだ。

 

ドメスティックなコミュニティにフォーカスする背景には、去年参加していたアメリカ・オーストラリア勢が(渡航費のサポートが受けられなかった等の理由により)今年ほとんど来られなくなってしまった、という事情もあるにはあるだろう。そういう意味では、外国からの「異物」という役割を、日本人の3人が担っているとも言える。わたしとしてもそれは望むところなので、『演劇クエスト』もできるだけフィリピーノたちに対して「異物」としてぶっこみたいと思っている。石神夏希がとにかくいろんなコミュニティの人と会いまくっているのも、武田力がタコ釣りを名目にナボタスのフィッシャーマンのコミュニティやスラムに出かけていっているのも、KARNABALとしては意味のあることになるだろう。

 

しかし、より広いコミュニティにアプローチしたい、という構想は、去年の時点ですでにJKやサラは持っていた。わたしの予想では、今年のKARNABALは、そうした各コミュニティの人たちが集って、お互いに何かを交わし合うような場に(去年以上に)なるのではないかと思う。そこではパフォーマーとオーディエンスはかぎりなく近づいていく。日本のように消費文化が爛熟したわけでもないフィリピンにおいては、「消費者としての観客」という層はほとんど存在しないように見える。少なくともケソンシティに関してはそうで、特にフェスティバルのメイン会場であるティーチャーズヴィレッジ周辺にはNPOもたくさんあり、アーティストやアクティビストも多い。彼らこそがKARNABALの参加者(パフォーマーであり、同時にオーディエンスでもある)ということになるだろう。

 

消費文化に慣れた日本人の感覚からすると、これはすごく内輪に見えるかもしれない。しかしJKたちが目論んでいるのは、実は分断されて個々の闘いを強いられている異なるコミュニティ同士のネットワークであり、少なくともここマニラにおいてはそれをやる意義は大いにあるのだろう。

 

外国からやってきた我々にしかできないこともきっとある。

 

 

 

 

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