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BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

デュッセルドルフ9日目 2015年10月20日(火)

 
どんなエリアに踏み込むのか未知数なので、アストリッドさんの家にPCを置いて、軽装でひたすら北へと歩く。まずはかつて動物園だった公園はへ。今はカモやガチョウしかいない。動物たちはどこへ行ったのか。
 
公園を出て西に進路をとり、鉄道の上に架かる橋を渡っていく。橋の手すりのところに誰かが置いた紙がはさまれていて、風でひらひらと舞っている。中をひらいてみると、「Fressnapf Düsseldorf」の位置を示す地図だった。何の意味があるんだろう?
 
ここに来たのは、この前お会いした人が「異国情緒がある」と教えてくれたあたりを探るためだ。ウルメン通りを北上していく。するとなぜかしら急に、遠くへ来たな……という感慨が湧いてきた。なぜ、多少なりとも自分を理解してくれる人や、温かい家や、慣れ親しんだ場所を離れて、遠い町の見知らぬ街路をひとりであてもなくうろついているのだろう……。空腹状態だったが、何も食べずにひたすら歩きたい気分だった。やがて墓場にたどり着く。十字架が並んでいる。ここらが潮時だろう。西に進路を切り替えると、すぐに大きな交差点へと出た。そこには、首とペニスと左手の親指を切り取られた、哀しい像が佇んでいた。
 
ロス通りを南下。フランケン広場を抜けて、工事中(この町ではいつもどこかを工事している)の立派な教会の脇をすり抜け、ゴルツハイマー通りからコレンバッハ通りへ。生活感と古い町並みとが交錯し、独特の雰囲気を醸し出している。
 
エッセナー・シュトラーセ駅からトラムに乗って町の中心部へ。そしてアルツシュタットにある芸術アカデミーへ。ヨーゼフ・ボイスが大いに物議を醸した学校だ。醸造所の裏手にあり、凄まじいビールの匂いに誘惑される。自分はこの学校には入らないほうがいいだろう……。しかしそのFuchshenという醸造所では酔っ払ったおじさんが大声で騒いでおり、面倒に巻き込まれるのはごめんだからスルーすることに。それで市庁前に近いほうの、これまた古めかしい醸造所に入ってみた。
 
 
座ってソーセージを注文。近くに親子連れがいて、2、3歳の女の子がやたら動きまわっている。そのうちわたしにもちょっかいを出してくるようになった。かわいらしい。この町にいる以上、特に日本人がめずらしいわけでもないだろうに。阿部謹也の『ハーメルンの笛吹き男』を読み終わる。ハーメルンの笛吹きの伝説がどのように変遷してきたかを通して、中世のドイツを分析し、そこに庶民の哀しみやエネルギーを見出そうとした本だった。この出版時にはまだ出会ってないはずだが、のちに網野善彦と意気投合したという話はなるほどよくわかる気がする。デビュー作とあって、静かな筆致の中にも熱いものがあった。
 

ハーメルンの笛吹き男伝説〉が最終的に「解明」されることは、おそらく近い将来にはないだろう。それまでは書を読み、文を綴るほどの者は伝説と自己との無限の距離の重みに耐えつづけなければならないのだろうか。

 

ゆで卵を追加注文して食べ、しばらくすると、少し離れたテーブルにいる老夫婦がやはりゆで卵を注文しており、わたしを手招きしている。なんですか?と訊きにいくと、君はさっきゆで卵を食べていたが、こうやって食べるんだよ、見ておれ、というので見ていると黄身だけ取り出して潰してそこにオイルをかけ、再びそれを白身の中に戻して食べていた。なるほど……。おじさんはデュッセルに50年くらい前に来た。おばさんはデュッセルの、今日わたしが歩いてきたあたりの出身だという。今日はこの醸造所で年に一度、特別なビールが振る舞われる日らしい。そうか、みんなそのビールを目当てに来ているのか……。見回すと、家族連れと老人たちがやたらと多かった。わたしにはわからないことばかりである。だけど、知らないことを負担に感じるとつらくなる。楽しむことにしよう……。
 
ところでいつものことだが、わたしは特にFacebookなどには良いことや楽しいことしかほぼ書かないので、それを見た人から「楽しそうね」とか「充実してますね」とか言われることが多い。それはもちろん好意的に言ってくれているのだが、もの言わぬ人たちからは、楽して人生過ごしやがってこの野郎と思われているかもしれない。まあ誤解されて生きるのにはもはや慣れているのだが、時々その齟齬が哀しくなるのも事実である。人生苦労してきたし今もしているしこれからもするだろう。特に最近は悩みの種が増えている。活動量が増え、接する人が増えているのだから、やむをえない。放っておくとエントロピーは増大していく。どこかで断捨離するほかないだろう。そしてそう遠くないうちにそれは起こるのではないかと思う。
 
……とかいう話はさておき、調子に乗って8杯もアルトビールを呑んでしまった。わんこそば方式でどんどんビールが運ばれてくるので、つい杯が進んでしまう。一杯2ユーロ前後と安いせいもある。
 
 
外に出てwi-fiを拾って緊急のメッセージを確認したのち、近くのキレピッチュ・バーに勢いで入ってみる。2杯ほどさくっとひっかけて、記念にグラスを買った。トラムでまた例によって1駅乗り過ごし、昨日は行けなかった近所のバーに入ってみる。若い女性2人が給仕をしていて、ハロウィンの飾り付けをしている。老人たちが談笑している。思ったよりも平和な雰囲気だ。男が1人でスロットマシン(?)で遊んでいる。わたしもやってみようかな、と思いつつ、サッカーの試合を眺めているうちにうつらうつらしてしまった。
 
 
 
 

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