BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

マニラ15日目

 

朝起きて、ああ、やってしまった……。ここでは朝8時を過ぎると気温がぐんぐん上昇する。部屋にクーラーもないので、暑さ対策は必須なのだが、動き出しが遅すぎた。軽い熱中症のように、ぐったりしている。

 

とりあえずクーラーのあるシアトルズベストに這うようにして向かったのだが、体力が続かず、JKに連絡して、クーラーのある彼の部屋で寝させてもらうことに。

 

なんとか動ける状態になったので、「まにら新聞」の澤田公伸さんと福田美智子さんにお会いして、フィリピン大学キャンパス内で行われる、NGOによる「イフガオの夕べ」というパーティに連れていっていただく。少数民族のパフォーマンスを観て、民族料理的なものを食べたのだが、意識はやはり朦朧としていた。それでも、おふたりが、このマニラという異郷の都市で生きているということに、とても感銘を受けた。海外で仕事をするようになって、日本を離れて異国で暮らす人たちと知り合う機会がじわじわ増えてきたのだが、そういう人たちが海の向こうにいる、ということは、本当に忘れないでおきたい。今度マニラを訪れる時、あらためておふたりを訪ねたいと思う。

 


タクシーでJKハウスに戻る。今夜はここでANGELINA KANAPIとTHEA YRASTORZAが演じる『Night Mother(おやすみ、かあさん)』が上演される(つまり、家が会場になっている)。ずいぶん遅れてしまったが、開演が30分以上押したおかげで間に合った……。わたしもだんだん、マニラ時間に慣れてきたのかもしれない。

 

体調が最悪でフラフラだったし、タガログ語での上演のため会話のディテイルをつかむことは無理なのだが、2人の女優の佇まいが素晴らしくて、最後まで集中して見た。ふつうの上演とはひと味違っていて、JKが鐘を鳴らすと彼女たちは「演技」をやめて、彼女たち自身として、開演前に集められた観客からの質問に答える。その質問というのが、例えば「あなたは何者か?」とかいった哲学的な質問が並んでいて驚くのだが、実際に娘役のテアの母親が会場に来ていたらしく、アンジェリーナは「あんたの本当のお母さんに聞いてみなさいよ!」みたいなセリフを(たぶん)Theaに言ったりしていて、虚と実が入り交じっていく。

 

自分自身の言葉で質問に答える彼女たちは実に美しかった。ほぼ演出家しか語る機会を与えられていない日本とは、かなり状況が異なっている。そしてなんといっても演技が素晴らしくて、フィリピンの演劇教育の質の高さを思い知らされた。単に役になりきるだけでなく、彼女たち自身(ヴァルネラビリティのようなもの)をも同時に曝け出すという……。これだけの俳優は、日本にもそんなに多くはいない。

 

途中で明らかにされたことだが、実はこの日が、彼女たちが一緒に演技をする初めての機会であり、なんと稽古もそれぞれ別々に行ったとのことである。さらに驚いたのは(翌日に聞いたところによると)、2日目はアンジェリーナからの提案で、ラストシーンの母と娘の役を入れ替えたらしい。……いったい彼女たちのこの貪欲なチャレンジ精神はどこから来るんだろう?

 


さすがに今夜は打ち上げも遠慮して、とにかく早めに寝ることに。階段を上がっていく時、テアに「Good night」と声をかけられた。もちろん彼女はユーモアを込めてそう言ったのである。

 

 

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