BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

マニラ12日目

 

今日は火曜日。そろそろ日曜日の最終プレゼンのイメージを固めたい。昨夜、武田君とも話したのだが、マニラでパフォーマンスすることの意味や、KARNABALというこのフェスティバルそのもので上演することの意義なども考えたい。ちょっと綺麗にまとまったことをやってサヨナラするのでは意味がない。だったら出来合いの作品を持ってくればいいのだし(そもそも、わたしにはそんな持ち合わせはないのだが)、KARNABALがそうした完成品を欲していないこともわかっている。

 

武田君と一緒にレストラン、リトル・キアポで遅めの昼食。前にここで食べて気に入ったrellenoという魚の丸焼きに野菜などを詰めあわせたものを食べる。他、カレカレを頼んだつもりが、ライス付きで、要するにカレーライスのようになっている。美味しかったからいいんだけど、温かい汁物が食べたかったなあ……。

 

そこからトライシクルを拾って、ブランドンに教えてもらった市場、ネパQマートを目指す。地図で見ると大通り沿いにあるのだが、トライシクルがあらぬ方向に行こうとするので、静止して、大通りのほうに行ってもらうことに。しかし後でわかったことだが、運転手は間違っておらず、ネパQマートへは回り道をしないと行けないのだった。運転手には悪いことをした。そして我々は、恐ろしい排気ガスが渦巻く大通りを歩かなければいけなくなった。数日前の日記に「マニラの人は散歩しないのではないか?」と書いたが、こんな排気ガスの中を歩きたいとは思わないだろう。体調がよろしくないので、薬局に入ってリポビタンDを買う。なんとなく日本のより強烈な感じがする。

 

川の手前にいい感じの市場があり、ネパQマートはその対岸にあった。川はゴミが溜まっていてかなり汚染されているが、渓谷のような地形になっており、かつてはさぞかし美しい川だったに違いない。

 

ネパQマートは巨大な市場であった。こうした市場にはたとえばホーチミンでも行ったことがあるけれど、観光客は基本的に高値をふっかけられるし、客引きもうるさい。しかしここは庶民的な佇まい。日本人が入ってくるのは珍しいのか、かなり奇異な目で見られたけれども、特に敵視されている感じもなく、時折「アニュハセヨ」とか「アリガトウ」とか声をかけられるくらい。ちなみにマニラの人たちには、韓国人と日本人の区別がつかないようだ。

 

この市場には、魚や野菜などの生鮮食品のエリア、衣料品のエリア、リヤードやゲームセンターなどの娯楽エリアなどが、ある程度区分けされながらも混在している。特に生鮮食品のコーナーはきっと朝のうちが賑わうのだろう。午後は品物のなくなった台の上で、人や猫がごろりと寝ている。死んだように眠っているので、やや不気味な光景ではある。

 

衣料品コーナーには子どもたちも多く、我々に対して好意的であった。何人かが記念撮影に応じてくれて、ゴキゲンな写真を撮る。けっして油断したわけではないのだが、少しほのぼのした気持ちになってくる。

 

ネパQマートを出てやはり排気ガスが凄まじい大通りの陸橋を渡ると、Sipat Lawin Ensembleのスタジオに近いエリアへ。サリサリ(個人商店)が並ぶ一角で、焼き鳥の煙があがっていたので、路上で焼きたてを買って食べる。レバーと脂身を1本ずつ。かなり美味しい。ただビールが無いのがつらい。後から思えば、どこかのサリサリの店内には置いてあったのかもしれない。

 

 

以前、サラとニンヤと一緒にこのあたりを車で通った時に、川沿いに集落のようなものがあるのを記憶していた。もともと面白い路地などを発見する嗅覚にはたぶん若いうちから恵まれていたのだが、『演劇クエスト』のリサーチをするようになってからは特に、それを都市のランドスケープ全体の中で捉える癖が身についてきた。あの川沿いにはきっと何かがある。何か惹かれるものがあった。そこに行ってみたい。武田君が一緒に行ってくれるというので、そちらを目指して歩く。道中、道端でバスケットボールに興じている少年たちがやはり「アニュハセヨ〜」と声をかけてくる。たまに個人商店があり、みなのんびりしている。全体的にのどかで牧歌的な雰囲気。暮らしやすそうだ。

 

さてしかし、さきほどネパQマートの横を流れていたのと同じ汚れた川を渡り、いざ目的の集落に入ってみると、雰囲気は一変。あまりにも貧しい暮らしぶりに、ふらふらと迷い込んでしまったことを後悔する。我々が来るような場所ではなかった。いわゆるスラムと呼ばれる地域なのだろう。ちなみにフィリピンの「地球の歩き方」には、スラムには立ち入り厳禁とはっきり書いてある。半裸の人々が、これまで以上に奇異な目つきで我々を見てくる。猫や犬は皮膚病で肌がただれている。人に襲われなかったとしても、やつらに噛まれたら大変なことになるだろう。武田君、こんな酔狂に巻き込んでしまってごめん……と思ったが、その彼はというとわりとのほほんと歩いていて、たまに写真を撮ったりもしている。や、写真はさすがに撮らないほうがいいんじゃないかな……。わたしはいちおう、動じてないフリをして、悠然と一定の速度で歩きながらも、どこか曲がれる道があればすぐにも脱出しようと考えていた。しかし、川側には橋がないし(橋のない川!)、反対側に抜ける道もない。引き返すか、進むか。ここまで来たら先に進むしかあるまい。しかし道幅はどんどん狭くなり、果たしてこの先に抜ける道があるのかどうかも不安になってくる。地図上は抜けられるはずなのだが……。行き止まりになった場合、この道をまた引き返すことになるのかと思うと、ぞっとした。

 

道幅がいよいよ狭くなってきて、通りの人たちの存在を無視するのが困難になってくる。否応なしに人々と目が合うので、会釈をしながら、ごめんよーちょっと通してね、という感じで歩いていく。コンニチワ、などと声をかけられることがあるので、こんにちわ、と返すと、彼らは「通じた!」という感じで喜び始める。道端にいたおじさんが何か話しかけてきて、武田君が「え?」という感じで聞き返した。わたしとしては一刻も早く通り過ぎたかったので、武田君なにしてくれてんねんという感じもあったのだが、もうおじさんとの話は始まってしまったし、もはや完全に好奇心の塊のような路上の子どもたちに取り囲まれてしまったので、腹を括って、おじさんと話してみることにした。

 

どうやらこの集落には、日本に行って結婚して帰ってきたオータさんという人がいるとのことだった。いわゆる「ジャパユキさん」と呼ばれる人のことなのか。誰かがそのオータさんを呼んでくる。オータさんによると日本人である旦那さんはすでに亡くなってしまったとのことだが、本当かどうかはわからない。娘と息子がこの集落にいるという。また誰かが呼んできて、そのオータさんの娘と息子がやってくる。そして一緒に記念撮影。凛々しい顔立ちをした子どもたちだった。そう思うと、周囲の人たちもいつのまにか怖くなくなっている。動物の皮膚病はちょっと怖いけれど、ここにいる人たちの、なんと生命力に満ちあふれていることだろう……!

 

しばらく話してから、別れを告げて彼らの元を去る。そのあたりで集落は終わっており、通路を抜けると、そこはもう別世界、いつものケソンシティ。つい今までいた世界が、夢か幻のようにも思えた。

 


タクシーを拾って、KARNABALのメインエリアであるティーチャーズビレッジを目指しながら、武田君とわたしはなんとも言えない幸福感に包まれていた。マニラに来てついに、大切な場所を発見したのかもしれない。2人して、心が洗われたね……と話す。何か憑き物が落ちたような気分になっている。

 


パペットミュゼオで、YENYEN DE SARAPENによる『Masterclass in Mascotry (Mascot 101)』。今回KARNABALで観た中ではSipat Lawin Ensembleの『Gobyerno』に匹敵する衝撃作だった。開演前に、16歳のジェローム君がなぜか舞台上の椅子にひとりで座っており(青年団でいうところの「0場」か)、宇宙刑事シャイダーなど日本の戦隊物の音楽がひたすら流れている。それだけで相当シュールであり、すでにして傑作の予感が漂っていたのだが、いざYENYENが登場し、セーラームーンの音楽に合わせて彼女がマスコットに変身してからが、なおさらヤバかった。その人形はまるで楳図かずおの漫画に登場しそうな顔をしていて、カワイイというよりは不気味。そして子ども向けにはNGであろう仕草も連発。あの顔と声では、子どもたちは怖がって泣き叫ぶかもしれない。かつて香港のディズニーランドでマスコットとして働いていたYENYENは、今やインディペンデントマスコットとして、何物にも縛られずに生き生きと躍動しているのだった。会場を爆笑の渦に巻き込みながら、資本主義とそのルールに対する強烈な批評精神を発揮して見せている。

 

あの集落での体験と、このYENYENのパフォーマンスとで、すでにこの上ない幸福を感じていたのだが、責務としてもできるだけたくさんの作品を観たほうがいいだろうと思い、続けてBUGSOによる『PEPENG MAKATA』を観劇。これはマニラ滞在2日目のワークインプログレスですでに観たはずの作品だったが、まったくの別作品になっていた。最初の案ではかなり静謐な2人芝居だったのだが、実際に上演されたのは、真実の愛を見つけなければヴァギナが爆発するという設定で、2人の女性パフォーマーがあれやこれやを試すもの。例えば舞台上に観客を引っ張りあげて一緒に踊ったり……。もはや繰り返すまでもないが、KARNABALでは観客席はまったく安全地帯ではないのである。上演は全編タガログ語であり、最初のうちは通訳についてくれたPJ君のドラァグクイーン訛りの英語を理解するのが難しくてついていけなかったが、最終的には理解することができた。PJ君には感謝している。

 

合流した石神さんと武田君と3人で、いつものバーへ。それぞれの所感などを語り合う。この3人でマニラに来られて良かった。みんなタフにやっているし、それぞれの模索を続けている。そのうち小さな男の子がやってきて、なんという名前だったか、とてもいい香りがする白い花を売りに来た。いつもは断るのだが、20ペソくらいだったかで石神さんがその花を買う。しばらくして石神さんが帰った後にも、またその少年がやってきた。もう買ったから今日はいいよ、と言うと、コーラをおごってくれないかと少年がねだってくる。コーラは50ペソと少々高かったが、君がさっきあのお姉さんを幸せにしてくれたから、感謝の気持ちを込めてお返しするよ、と言って買ってあげる。そんなささやかな善意を施したところで、この国に蔓延している貧困をどうすることもできないのだが、少年は礼儀正しくお辞儀を言って去っていく。

 

JKから、近くの店で御飯を食べると連絡があったので、向かってみると、オーストラリアから来て長期滞在しているマックスが、ひとりでレッドホースを呑んでいる。彼はゆるりと近づいてきて、一緒に座っていいかと野太い声で言う。コワモテだがとても気の良い人物で、いささか呑み過ぎる傾向がある(人のことは言えないが)。そのうちようやくJKたちがやってきて、将来のことなど話して帰宅。マニラに来てから、最も酔っ払った日になった。

 

 

 

 

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