BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

マニラ8日目


朝、チームジャパンシアトルズベストで待ち合わせて、今後のスケジュールのすり合わせ。そして近くのスーパーマーケットに両替をしに行くと大雨……が、すぐに晴れる。こうした天気の変転は人格形成にも大きな影響をもたらしていそう。

 

ヴァルガス美術館へのタクシーはメーター計算では行ってくれなかったが、交渉の結果、プラス20ペソで。

 

美術館では何人かのアーティストインタビューを聴く。たとえば、音響アーティストであるTeresa Barrozo。英語ができるにもかかわらず、話に熱中するとフィリピンのローカル言語(たぶんタガログ語)になる。「日本ではサウンド(音)とミュージック(音楽)を区別する考え方があってダンスや演劇にも影響をもたらしているが、あなたはどう考えるか?」と質問すると、テレサは「個人的にはサウンドとミュージックを分けて感じてはいなくて、たとえば誰かの声やこの空間の音がある、としか思わない。だが表立って説明する必要がある時は分けてはいる」とのこと。こうした図式化は単純すぎるかもしれないが、ある種のフィリピン人アーティストたちには、「パブリック=英語=ロジカル」と「パーソナル=タガログ語=エモーショナル」の2つのモードが混在しているのかもしれない。しかしその切り替えは「建前と本音」というより、時には彼ら自身にもアンコントローラブルなものとして表れているように思える。そしておそらく、彼らにとって、ローカル言語によってしか表せないエモーションというのはとても大切なものであるに違いない……。

 

その直後、会場にいたドイツ人女性が話しかけてくる。「あなた、もしかしてTPAMで、本を使ったプロジェクトをやってた人じゃない?」……彼女はレスリーさんといって、数年前から香港に拠点を置いているキュレーターであるらしい。たまたまその隣の席に居た、髪を赤く染めたクレアと、理紗さんと、なんとなく4人で話す。クレアは美術批評を学んでいるとのこと。

 

それからRuss Ligtasの展示的パフォーマンス。観客は1人ずつ部屋に案内される。裸に全身ストッキングをまとった状態で寝ているラス。ぽつんと置かれた椅子に腰掛けると、ラスは、そのペニスがはっきり見える距離まで近寄ってきて上目遣いでささやく。「私の秘密を話してもいい?」……その内容はFacebookで拾ってきた誰かの「秘密」であるようだ。ラスの姿はとても色っぽくて、なんとなくいたたまれない気持ちになる。

 

 

そして夜はSipat Lawin Ensembleによる『Gobyerno』のローカルバージョン。JKが主宰するSipatの作品は映像を断片的に見せてもらったことしかなかったのだが、端的に言ってこの作品には凄く感動した。ワークショップ形式で、まずは3つのテーブルに分かれて「理想の政府」についてディスカッション。フィリピンの様々な問題点を書き出し、議論しながら解決策を出し合っていく。日本でやるとしたらこの状態に至るのに少し時間がかかるかもしれないが、メンバーは積極的に自分の意見を言う。タイムキーパーがいて、制限時間内にどんどん物事を進めていく。そして出てきたアイデアをスピーチとして書き起こしていく。最終的には全体で合流し、JKの見事な仕切りでリポーター、デモ隊、スピーチリーダー、エンドロール作成係など役割分担し、ひと通り簡単なリハーサルを済ませたら即、一発撮りでビデオ撮影! その5分後くらいには撮ったビデオを参加者全員で鑑賞するというもの。参加者の多くは高校生だったが、彼らがまるで大統領のような見事な演技(!)でスピーチをしている姿を見て、ちょっと涙が出た。未来の演劇だなあ……。日本で言えば、多田淳之介や柏木陽の活動に通ずるものがあると思うし、演劇センターFの理念にも非常に近しいものを感じる。個人的にも、この人たちに呼んでもらったおかげでここにいられることを誇りに思った。

 

ところで、ここマニラではアーティストは多くの場合、かなり高水準の教育を受けたエリートである。そのエリートたちが、みずからの社会的役割や地位を自認した上で、積極的にその知見やアイデアを、地域社会や政治に対してプレゼンテーションしようとしている。『Gobyerno』はそのひとつの現われとも言える。

 

『Gobyerno』はすでに韓国人たちとの共同作業が始まっているようだが、では果たして日本では可能だろうか? アートや知性に対するコンプレックス(劣等感)やフォビア(恐怖症)が渦巻く日本で。しかしマニラには、誰かが解決しなければならない喫緊の課題がある。人材の流出。渋滞や環境汚染。治安の悪さ。そして貧困。

 

 

終演後にMaginhawaストリートのフードコートへ。ここは学生が多いこともあってビールは売られていない。ううむ、呑みたい……。そして明日のプレゼンの構想を練りたい……。ブランドンが、そんなにシリアスにならなくても大丈夫だよと慰めてくれたおかげで気持ちはだいぶ楽になったのだが、日本から来た以上、マニラの人たちに何を手渡せるかはきちんと考えたい。JKによると、フィリピンではまだポストドラマ的な作品が少ないので、日本の最先端の状況を伝えてほしいとは思っている、とのこと。結局近くのミニストップで缶ビールを買ってトライシクルで帰宅した。

 

 

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