BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

マニラ7日目

 

朝、チームジャパンの面々に、JKが懇切丁寧に各プログラムについて説明してくれる。忙しい中ありがたい。本人は「影分身の術」を使ってなんとかやっているよと冗談を言う。2時間近く話を聞いた後、アイリーンがつくってくれたランチを。かなり美味しい。

 

そういえば、犬のユキがいつのまにかわたしを見ても吠えなくなった。

 


タクシーに分乗してフィリピン大学(略称UP)の敷地内にあるヴァルガスミュージアムへ。ミレンという青年が案内してくれる。彼は船のナビゲーターをしているそうで、ついこないだは佐世保に行ったし、呉や神戸や鹿島にも行ったことがあるよという。余計なお世話だと思いながらも、日本語で「未練」はどんな意味かを教えてあげる。ミレンはもちろん複雑な表情を見せる。

 

ヴァルガスミュージアムは森の中にあった。まずはエドとマックスによる「PLAYBACK」のワークショップに参加。内容的には日本のワークショップとほぼ変わらない。ただ、ある名指された感情をどう表現するかに重きが置かれているらしいのには違和感があった。とはいえ、現在のフィリピンの舞台芸術の文脈をまだ十二分には把握できていないので、まずは様子を見ることに。参加していたのはフィリピンのエリート高校生や我々のようなInternational Exchange Platformのアーティスト。彼らとの距離もずいぶん縮まった。特にまだ幼い顔つきをした14歳のジェロ君が、武田力のインドネシアでの受難のストーリーを演じたシーンはすごく良かった。

 

それからパペットミュゼオへ移動。他のメンバーについていったつもりが、理紗さんと今のワークショップの経験について話しながら歩いていたら2人で取り残される。そこはバラック小屋が並ぶエリアで、子どもたちが野犬と一緒に遊んでいる。バラックはずいぶん粗末なつくりで、そこらへんにある木片や鉄材などを寄せ集めてつくったような家だ。少し怖いので、警戒しながら歩く。国立大学の敷地内に棲みついている人たちがいるという、フィリピンの現実。経済的に貧しい人たちがあまりにも多すぎる……。

 

一方でMAGINHAWAストリートのフードコートは明るくてオシャレな雰囲気だ。アイエンとインディが本当に働いていて、笑顔で迎えてくれる。マンゴーバナナのスムージーが美味しい。

 


マニラで観る最初の演劇作品は、ANINO SHADOWPLAY COLLECTIVEによる影絵芝居『Arkipelago 2: A Story of Intima-sea』。少年がイルカに誘われて海の中へと入っていく物語で、浦島太郎に似ている。正直、ミニマルに繰り返される音楽でもあり、気持よくなってうとうとしてしまったが、とにかく美しくて幻想的な世界だった。開演前に長いビニールの束が観客席に手渡され、みんなで音を立てて触っていく(波の音のように聞こえる)。終演後には舞台裏を開陳して、子どもたちを影絵で遊ばせるというサービスも。

 


続いてはISABELLE MARTINEZ & DAVID FINNIGANによる『Appropriate Kissing for All Occasions』。女優1人で、観客にキスの仕方を教えるというコメディタッチの短編。何人かのボランティア(犠牲者?)が前に出て彼女にキスをされる。ふーん、デイヴィッド、こういう作品をつくるのね。「キスに嫌な思い出がある人?」などなどを訊かれるのだが、こちらの記憶を深く刺激してくるような何かは感じられなかった。個人的に、あの人が好きとか嫌いとか、くっついたとか離れたとかいうことにあんまり関心がないせいか、わりとコンサバティブな恋愛観をベースにしているように感じてしまう。

 


あ、忘れていたけれど、KARNABALフェスティバルの作品はすべてBLANK TICKETというシステムになっていて、渡されるチケットは値段が空欄になっている。そこに観客が、自分で好きに値段を書き込んで、お金と一緒に渡すというもの。作り手へのメッセージも書き込むことができる。つまりはお金が無い人でも観られるという仕組み。KARNABALの客層は総じて若いが、学生たちに優しいシステムになっている。

 

JKによると、ワークショップは300ペソくらい、大劇場の作品が800ペソくらいが相場とのこと。わたしは最初のワークショップに300ペソ、影絵に500ペソ、キスの作品に200ペソを払った。スタッフが「こんなに短い作品にこれだけ出してくれてありがとう!」と言ってくれたのだが、それが本心からの言葉なのか、お世辞的な言葉なのかはわからない(たぶん前者だろう)。

 


さらにDESTIYERO THEATER COMMUNEの『Acts of Piracy: Performative Criticisms (Acts of Reclamation)』を観劇。3つの短編で構成されていて、それぞれ1人芝居。映画やドラマなどの映像をカットペーストしたものをバックに流して、その手前で俳優が演じる。あっ、東葛スポーツみたいだ!、と思って注視したのだが、実際非常に刺激的だった。

 

特にACT1は、エリア・カザンの『欲望という名の列車』を下敷きにしていて、最初は女優(ビビアン・リー)の真似をして英語で喋っている舞台上の俳優が、次第にそこからズレて、タガログ語で語り始める。要するに彼女は映画の中のマーロン・ブロンドと対話をしているのだ。あの映画を観たのはもうずいぶん昔のことなので詳細は忘れてしまったが、お嬢様が野卑な男に恋をして、その教養や価値観の落差によって破滅するという物語だったと記憶している(が、今wikipediaで確認してみたらちょっと違ったらしい……)。タガログ語と英語を対比させることで、映画の中で描かれているアメリカのマチズモとは異なる、現代フィリピン人の感情を浮かび上がらせようと試みている……と感じたが、タガログ語が理解できないので実際そうなのかはわからない。ポストコロニアル演劇を実際にその場所で観るのは初めての経験で、終演後にディレクターのJoshua Lim Soに(ためらいながらも)話してみたところ、やっぱりそういう意識はあったとのこと。

 

ちなみにACT2はヨン様っぽい男優の恋愛ドラマを6本繋げたもので(どのドラマも全く同じに見えることへの皮肉か……)、ACT3は俳優から大統領になり、やがて汚職で投獄されたもののマニラ市長として復帰したという破天荒なジョセフ・エストラーダをモチーフにしていたらしい。ハイコンテクストではあったけれども、なんとなく構造は理解できた。たくさん払いたかったけど、手持ちが乏しいので400ペソをBLANK TICKETに書き込む。

 


この夜のHUBはMAGINHAWAストリートの果てにあるBlack Soupというお店でマジック・ショー。最後に登場したメンタリスト(超能力者)がカリスマ的な妖しさを発揮していて、ジェローム君16歳がアシスタントとして奮闘。弟のジェロ君14歳はというと甘えた表情でサラに抱きついている。サラの教え子らしいから日本だとかなりアウトな状況だが、これくらいのフィジカルタッチはマニラでは当たり前らしい。

 

ようやく深夜1時過ぎに帰宅したところ、JKいわく「オー、チカラさんごめんなさーい、イェンイェンさんがwi-fiなくしましたね〜」とのことでこの夜はwi-fiが使えず……。

 

 

 

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