BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

20140219 岸田戯曲賞発表

 

六本木のスーデラに行くか、下北沢のB&Bに行くか、という選択肢もあったのだけれども、体力がまだ回復してないし、結局、いつもの喫茶店で仕事をしてから、そのあと三浦半島のほうにある海岸沿いの温泉銭湯に向かった。そしてなんとなく横須賀で三冷ホッピーを飲みながら、第58回岸田國士戯曲賞の発表を待った。

 

今回は誰が受賞してもおかしくないという感覚もあったし、何人か応援している人、それも抜き差しならず応援している人はいたけれど、まあどういう結果になっても粛々と受け止めるだろう……という感覚を持っていた。けれど、いざ、飴屋法水さんの受賞が決まってみると、なんとも言葉にしづらい複雑な感情が湧き上がってきて、泣きそうになってしまった。横須賀でどじょう鍋やスパム玉子をつつきながらホッピー飲んで泣いているなんて謎である。未だにその涙の意味はよくわからない。ただ、ネガティブなものではないのは確かで、飴屋さんの受賞はほんとうに喜ばしいことだと思った。

 

飴屋さん、そして彼の活動をいつも支えているみなさん、おめでとうございます。

 

いわき総合高校で上演された『ブルーシート』は観ていないのだが、飴屋さんの近年の活動を断続的に見てきて、この人が演劇(というか芸術)界に直接的・間接的にもたらした影響はあまりにも大きいと感じている。わたし自身も、彼の活動から相当な影響を受けていると思う。『演劇最強論』に書いた俳優論とダークサイド演劇論は、飴屋さんの存在なくしては書かれることがなかったと思うし、そもそもあの本自体、生まれなかったかもしれない(これは誇張ではない)。

 

どうしても若い作家は、目の前のことに囚われがちになってしまう。それはけっして悪いこととはかぎらない。けれどやっぱり、その素朴な体験至上主義だけでは太刀打ちできないようなものがこの世には存在している。世界の闇というか……。飴屋法水は、その世界の闇に対して、独自のアプローチを続けているアーティストだと思う。そこには個別の(私の、彼の)目を超えた、幻視としてのビジョンがある。ほとんどの場合、彼自身がその舞台(その多くは劇場ではない場所)に立つのだが、それは一体誰なのか……? 彼はそこにいながら、そこにいないものを引き連れてくる。様々な物質や記憶をたぐり寄せてくる。そしてフィクション(虚構)が立ち上がり、見えなかった世界の闇への扉がいつのまにか開かれている。

 

 

 

選評が楽しみです。この場でどういう議論が交わされたか、という記録は、それに沿うにしろ反発するにしろ、舞台芸術の動向にとってかなり大きな影響をもたらすものになりうると思うので。そして今回惜しくも届かなかった人たちへ。捲土重来を……!