BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

20140218 「批評家」を名乗ることについて

 

午前中、横浜某所で座談会。某氏のつくってきたデータ資料がかなり充実していて、おかげで幅広い視野で議論ができたし、この数年の舞台芸術界を裏側から見つめるような内容になった。自分自身の活動を、そうしたパースペクティブの中に位置づけ直すこともできたように思う。

 

 

肩書きにひっそり「批評家」を加えることにした。この名称を名乗ることには抵抗がずっとあって、というのは、これまである種の理想として思い描いてきた偉大な批評家像に比べると、知識も経験もまだまだ足りないなあ……と思うし、おそらくこの欠落は一生涯かかっても埋まらないだろう。だけどTPAMではすでに「critic」を名乗ってしまったし、TPAMエクスチェンジで新しい批評家像も示すことになったので、これはもう引き受けていくしかないし、そうするのがむしろ自然だという感覚がおとずれたのだった。

 

新しい批評家像というのは、「のりしろ」あるいは「catalyst」として捉えるとわかりやすい。もちろん作品と真剣な対峙をしたり、アーティストに伴走したりすることもやっていくだろうけども、それだけが彼の役目ではない。彼は、(アーティスト、制作者、観客などが支えている)マーケットの渦中に飛び込んで、何らかの言葉のエネルギーを投下することによって、既存の価値体系を撹乱することを試みる。あるいは個々に独立して離ればなれになっている人・場所・言説を架橋していくような役割を果たすこともあるかもしれない。そうやって、芸術をとりまく環境の中から眠っている価値を発掘したり、場合によっては(それが必要であれば)新たに創出するのが彼の仕事ということになる。

 

客席に深々と座って居眠りするのが彼の仕事ではないし、もしかすると劇場にいる時間よりも、あちこちの町をほっつき歩いている時間のほうが、はるかに長くなるかもしれない。