BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

20131218 F/Tディレクター交替、赤いシロップ

 

F/Tのディレクターを交替します、と事務局から送られてきたメールを読んで、悪い冗談かと思った。交替の理由が何も書かれていない。これで「より開かれたフェスティバルを目指」すとか言われても、いやいやご冗談を……と苦笑するほかない。いや正直に言うと、もっとひどい脱力感に襲われた。うすら寒い気持ちになった。

http://www.festival-tokyo.jp/news/2013/12/ft-1218.html

 

いたずらに憶測を流布することで誰かが無闇に傷つくのは避けたいと思って、ひとまずこの日は様子を見ることにして、SNSでは発言しなかった。ただし、沈黙するつもりはない。なにしろ次のディレクターに就任する現・実行委員長の市村作知雄さんは以前、相馬千秋にディレクターを任せる際に次のように発言していたのだから、今回の、時計の針を巻き戻すような交替劇はなんとも不自然と言わざるをえない。

 

「F/Tは先端型の芸術祭ですから、若い人がディレクターをやるべきです。それに僕はベルリンの壁崩壊以後のドイツ演劇を紹介したり、自分の時代でやるべきことをやってきた。これ以降はどんな社会になるのか見守りたい気持ちなんです。」

http://festival-tokyo.jp/09at/blog/2009/12/post-75.html 

 

いったい何が起きているのか分からないが、わたしが知るかぎり相馬さんが自分から辞めたとは考えにくい中で、どうして「父」が「娘」の首を切るようなギリシャ悲劇みたいなことが起こらなければならなかったのだろう。お家事情の全てが知りたいわけではない。ただ、相馬千秋ディレクター体制下におけるF/Tのこの数年間の方針が(誰かに?)否定的に捉えられたのであれば、その理由を明示してくれないことには何も議論が積み重なっていかないし、次のF/Tに期待してくださいと言われてもそれは無理としか言いようがない。もしかすると、東京オリンピックも近づくし、実験とか先鋭とかはやめて、とにかくもっと芸能人をばんばん舞台に出して観客動員を伸ばして、広告資本も入ってくるようにして、それで数字として世界に誇れるフェスティバルです、ほら東京って凄い都市でしょう……みたいなバブル時代アゲインなことをやりたいのだろうか(この憶測がただの邪推であることを祈る)。いったい誰のどんな思惑が働いて今回の決定に至ったのかを明らかにしてほしい。F/T閉幕の日にも書いたけども、少なくとも相馬千秋体制下では、たとえ意見が違ったとしても、きちんと言葉を紡いで議論を積み重ねていこうとする姿勢は貫かれていたと思う。その灯を簡単に消してほしくはない。

 

 

雪の予報もあり、恐ろしく寒い日だったが、誰かのまともな話を聞かないと気が狂ってしまうと感じて下北沢へ向かった。まずイーハトーボに寄ってホットジンジャーを飲み、寄稿しているミニコミ「He+Me=2」の最新号(下記写真は店主による巻頭言)を受け取ったあと、B&B佐々木敦×宮沢章夫のトーク。様々な話題が出た。特に演劇・小説・ラジオをめぐっての視覚に関する話や、批評家と作家の関係、あるいはあまり語られなかったコミットメントの問題については、もっと詳しくお聞きしたかった。ぜひまたの機会に。

 

会場に駆けつけたアメヤさんがなぜか「餃子の王将に行きたい」と言うので、じゃあ行きましょう、となったのだが、すでに打ち上げ会場が別に用意されていたのでそちらに向かった。店の入口にはかき氷の器械が置いてある。悪戯心を起こしたのかなんなのか、アメヤさんがその蛇口を捻ると赤いシロップが流れ出た。白い受け皿に赤い液体が飛び散る様は、鮮血のようにも見えたし、日の丸が破裂したようにも見えた。まさかこの次の日の朝に、餃子の王将の社長が銃で撃たれて殺害されるだなんて、誰が想像できただろう……。いよいよ暗殺がまかりとおる時代になってしまった。安全な場所は失われつつある。言葉で闘うというのは、なんとかして非暴力の内に留まりながら世の中に働きかけていくということでもある。テロリズムは安易な方法だし、誰も幸せにすることはできない。ペンは剣よりも強し、という言葉を今こそ噛みしめる。

 

 

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