BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

20130903 トニー滝谷

 

しばらくゆっくり話してなかったので、薫子氏に電話してみたら時間あるよというので関内駅近くのもつ焼き屋で飲んだ。海側のほうのみずほ銀行の隣にある立ち飲み屋で、初めて行ってみたけどなかなか美味しかった。薫子による「Qさん」とその主宰への愛情の言葉を例によって聞かされる。純粋に人のことを好きと言えるのってなかなか素敵なことだ。とかく人の世はどうでもいい夾雑物が混じりやすいものだから。

 

で、誘われてひさしぶりにさくらWORKSへ。5Fがnitehi worksの新オフィス(nitehi関内 http://www.nitehi.jp/nitehi_studio/)になっていて、見学させていただく。入居者が使えるラウンジのような部屋があって、そこがなんとも風通しが良く、ある種の親密さもあり、想像力が膨らむ。Qが『いのちのちQ』を上演した2Fの「さくらWORKS右側物件」もそうだけど、このビルには気持ちをワクワクさせてくれるものがある(稲吉稔さんがこの素敵な空間をつくっている)。前時代の遺産のような商業至上主義とは別次元の思想や価値観が宿りうる可能性を感じるし、感触の異なる言葉や時間を生み出すこともできるかも。とにかく経験上、ワクワクするかどうか、は物事を決める時の判断基準としてかなり信用が置けると感じているので、できればここで何かやらせていただきたいな、と思って薫子氏と飲みながらいろいろ相談。 

 

 

だいぶ酔っぱらった薫子氏を置いて、約束していたプチ送別会に向かう。数日後には日本を発つという若者に対して、ずいぶんと挑発的な言辞を繰り返してしまう。まあでも口うるさい人がひとりくらいはいてもいいでしょう。これはむしろ喪いの気持ちで言うけど、死んでしまった先生はもう二度と厳しいことを言ってくれない、というのはわたしにも経験のあることだから。その昔、ほとんど雪の降らない高知としては珍しい小学校のスキー教室で、スキーのコツは上手な転び方を学ぶことだ、とか言われたことを思い出す。何かしらの挫折というか座礁を経ないと見えないものがあり、とはいえ幾ら口で言っても伝わらないのだから(本当にそうかな?)、挫折を経験する前の若者たちと話せることはごくごく限られているというのが最近の気分ではある。少ない経験を隠すように、防御的に、頭で抽象的に考えられたことの多くはもうすでに大体目にしたことがあるし、既視感とはつまりはほとんど絶望そのものなのだ。わたしが今興味があるのはとにかく具体的な事実と体験の積み重ねであり(観劇も読書も旅もここに入る)、そこに含まれるノイズとニュアンスの可能性を丁寧に探っていくことだ。そして一定数の物的証拠をつかんだのち、初めて想像力の飛距離が威力を発揮することになるだろう。未来とはそうやって幻視から現実化していくものだと思うし、それは、今の数少ない手持ちのカードから安易に「想像」される最大公約数的なそれとはまったく異質の世界であるはずだ。つまらない自己防衛のために想像力を使うことなかれ。言葉を使うには勇気が必要だ、なにしろすぐに袋叩きにあう世の中なのだから。それにしても、とりあえず行ってみる、というのはなかなかできない英断だと思う。とにかくこの日最終的にたどりついた結論は、憧れを捨てること、安易に笑わないこと、そして暗号化して彼女にしか絶対に分からない言葉で記すなら「トニー滝谷」。前途に幸あれ。

 

 

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