BricolaQ Blog (diary)

BricolaQ(http://bricolaq.com/)の日記 by 藤原ちから

デュッセルドルフ滞在記2-1

 

初日、木曜日。例によって、2度目の都市を訪れる時はナーバスだ。特に今回はいくつかの要因が重なっている。日本から持ってきた仕事のこととか。まだ全然デュッセルドルフ版のテクストを書けてないとか。そもそもこの遠く離れた都市で何ができるのか、とか。この1年でヨーロッパの情勢も大きく変わった。どちらかというとその変化は芳しいものではなく、ENGEKI QUESTにとっては難問でもある。挑戦し甲斐がある、みたいな簡単な言葉で済ますこともできないような。

 

けれど飛行機から、緑あふれるドイツの大地を見て、気持ちが昂ぶった。アジアのそれとは異なるヨーロッパの森であり、田園だった。この土地で生きてきた人たちのこと、その歴史、そして今も人々を生きさせている、この大地の力強さを感じる。

 

 

Sバーンに乗ると、見慣れた風景。去年、この都市を歩きまわった記憶がまざまざと蘇ってきた。懐かしい……。ヨーロッパを訪れてこんなファミリアな気持ちが湧いたのは初めてのことだ。中央駅でトラムに乗り換えて、あきこさんの家へ。お久しぶりのような、そうでもないような不思議な気分。おかえり、と言ってもらえるのが嬉しい。

 

疲労困憊ではあったけれど、アルトビールが呑みたい。miuさんに無理を言って、少し散歩してから近くのバーへ。この1年のお互いの変化について話す。ある男の子との出会いについてmiuさんは語ってくれた。もしや、と思って苗字を訊いてみたら、やはりそれは、足の長い男の子のことだった。

 

 

 

 

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デュッセルドルフ滞在記2-2


2日目、金曜日。早朝に目覚める。tanzmesse(ダンスの見本市)に山口真樹子さんがいるらしいので、ライン川沿いをてくてく歩いて訊ねる。2014年に彼女にマンハイムに呼んでもらわなかったら、今自分がここにいることはたぶんなかった。

 

tanzmesseには世界各地から人が集まり、ブースがたくさん出ている。日本からはTPAMと国際交流基金が出展。ヒロミン、タン・フクエン、チョイ・カファイらとも少しだけ話す。旅人・カファイから進行中のプロジェクトの話を聞いて、いい刺激をもらった。どんな刺激を受けたかについては今ここには書かない。

 

アルトシュタットまで歩いて、定期券を購入。52.95ユーロ。やったね。これでトラムもバスも乗り放題に。カフェTENTENで少し作業してから、醸造シューマッハまで歩いていく。すると聞き覚えのある声に遭遇。火曜日のコンサートにお誘いいただく。去年の滞在から、何かがゆるやかに繋がっている。

 

 

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デュッセルドルフ滞在記2-3

 

3日目、土曜日。相変わらず早朝に目覚める。アルトシュタットの醸造所シュルッセルにMさんを案内する。彼女とこうして長く話すのは初めて。海外でたまたま居合わせたから仲良くなる、というケースはやっぱりある。

 

土曜日のアルトシュタットは、いろんな人種の人々でごったがえしている。なんか変だな、と思ったら、トラムがほぼ地下化されてしまったのだった。安全になったとはいえ、あのカーブを描いて入ってくる路線がなくなったのは残念……。

 

tanzmesseのクロージングパーティは断念。今はこの都市での生活の足場をつくることに専念したい。そう思って、スーパーマーケットでトマトソースを買って帰宅。パスタを茹でたのだが、ありえない味になった……。

 

 

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デュッセルドルフ滞在記2-4

 

4日目、日曜日。もちろん早朝に目覚める。イタリアにいる梨乃のアドバイスに従って、パスタにリベンジ。ニンニクとタマネギをちゃんと炒めただけで、だいぶいい感じになった。

 

あきこさんに導かれて、初の自転車。たぶん海外で自転車に乗るのは初めてだと思う。自動車やトラムのいる車道を走るのはけっこう怖い。けれどドイツでは歩道を走ると罰金40ユーロらしい。乗ってみてよかった。なるほど、町の見え方が全然違ってくる。

 

 

オープンアトリエKunstpunkteで、Soya Arakawaさんのパフォーマンスを観る。ドアが開け放たれ、外の雑音が入ってきまくりのホワイトキューブの中で、カンヴァスに絵の具で線が何度も何度も引かれていく。さらに、こねられた粘土の断片がすりつけられ、奇妙な歌声が響く。ふだん批評家としては、過度に自分のイマジネーションに引き寄せるのはNGだと考えているのだが、今のわたしはちょっと違うモードになっている。このカンヴァスはデュッセルドルフの地図であり、そこに引かれる無数の線は、この都市を行き交う人々の姿に見える。

 

会場で、デュッセルの呑みソウルメイト(とわたしが勝手に思っている)マリエ嬢に偶然再会した。醸造シューマッハで地図を見ながらいろいろ話す。彼女は去年よりもさらに自由になったようであった。けれど、異国での暮らしで自由であるということは、傍目に見えるほどにはラクではないだろう。とはいえ人間はそんなに自分の生き方を選べるものでもない。とにかく彼女は次々とコップを空にしていく。アルトビール五臓六腑に染み渡る。

 

 

 

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デュッセルドルフ滞在記2-5

 

5日目、月曜日。残念ながら早朝に目覚める。日本はもう昼頃だ、とか考えてしまうのがきっとよくないのだろう。去年ここに来て、編集の仕事をもう断念せざるをえないだろうと感じたのも、煎じ詰めればこの時差ボケに起因する。旅と物書きは両立できるけど、旅と編集仕事を両立させるのはとてもむずかしい。

 

ラーメン匠に並んでいたら「英語は話せるか?」と白人系のおじさんに話しかけられる。旅行者らしい。「あっちのラーメンと寿司はすでに試したが、こっちは良いか?」「良いと思う。ただしそれは1年前の話です。なぜなら……」などと話していると、店員に「お二人様ですか?」と訊かれて、なんだか吹き出してしまう。「ええ、今知り合ったばかりですが」。

 


「ニュースダイジェスト」の高橋萌さんがインタビューしてくださった。なんと3時間半超え……。自分がこれまでどんな人たちと出会ってきたか、何を大事にしてきたか、自分が考える芸術の意義、そしてそれらがENGEKI QUESTとどう関係しているのか。そんな話をした。(ポケモンGOとの共通点と違いについても話した。きっとそういう話もしたほうがよいと思って、用意していた。しかしそれ以上に根源的な話をたくさんできてよかった……。)

 

萌さんがデュッセルドルフに暮らすことになった経緯もすごく興味深い。人が移動する時、そこには物語が生まれるということだろう。ある日本人駐在員の妻の話。足を失ったドイツ人アスリートの話。多和田葉子さんの話。……この世界はそれぞれの見える世界=ヴィジョンによって成り立っている。

 

ENGEKI QUESTは個々人のヴィジョンと身体感覚を引き出し、そこに刺激を与えることによって、その未知の可能性をひらいていく。それはおそらく、人間の鬱屈を解き放ち、暴力を解除することにも繋がるだろう。わたしはそう信じる。暴力では、暴力を根絶することはできない。

 

マニラでは究極的にはたぶん雨が、孤独な人々を結びつけた。ここデュッセルドルフでは何がそれを可能にするだろう?

 

 

 

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デュッセルドルフ滞在記2-6

 

6日目、火曜日。引っ越しをする。陽当たりの良かったあきこさんの家を去るのは寂しいけれど、たぶんここから「次」が始まるのだろう。今度の家主は若い写真家。なんと子供鉅人の益山兄と同郷らしい。ヌードを撮っているとのこと。作品を見せてもらった。彼はアジア各地を放浪し、様々な人々のヌードを撮っていた。今は笑い話になっているとはいえ、やや危ない目にも遭ってきたようだ。そうして今はここデュッセルドルフに拠点を置いて、ヨーロッパの人たちのヌードを撮っている。とても面白い。彼の佇まいはなんだかふわっとしていて、脱いでください、と言われたら脱いでしまうのもわかる気がする。

 

夜はMiki Yui & Carl Stoneのコンサート。様々な音をサンプリングしているのだが、そのボキャブラリーが豊かで、ただ心地良いのみならず、イメージを膨らませることもできた。去年も使われていたホノルルの時報がやはり気になる……。そして会場ではいろいろな人たちに出会う。ドイツ語が話せないのが申し訳なくもあるけれど、英語でいろいろ喋りたい気分でもあり、しばらくおしゃべりをして過ごす。いくつかの約束もした。とりあえず流れに乗って、どこにたどり着くか試してみたい。

 

 

昼はENGEKI QUESTのリサーチをしていた。Flingernの近く、フルール通りのあたりをメインに。男の子が立ち止まって微笑んでいる。影の長さをわたしのそれと合わせているのだ。かわいいなー。自転車でぐるぐると同じところを走り回っている2人組の女の子とか。

 

西日を正面に受けながら、ビルケン通りを歩いていく。この都市にはなんとなく物語が生まれる気配が漂っていて、それは、外からやってきた人たちの存在がそうさせているのではないかと思う。人間にはおそらく引力がある。離れたり、近づいたり。ちょうど大道寺梨乃が、イタリアでの生活で感じる「ノスタルジー」について書いている文章を読んだ。ああ、りのと話したかったな(イタリアに行くのはひとまず断念した……)。単に故郷が懐かしい、ということではきっとないのだろう。いろんな人の複雑な感情や履歴が交錯する。それが都市であり、町である。今の家主の写真家は、部屋をアトリエにしているのだが、その壁には、モデルとしてやってきた人たちが絵を描いている。絵は、積み重なっている。それが町だと思うんです、と彼は言った。

 

今回のENGEKI QUESTはいつも以上に虚実入り混じったものになると思う。物語が現実と溶け合うような状態を、この都市では実現できる気がする。

 

 

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